「5.28坂本頼光(延長戦)」の回を起こしたいと思います。
清野
それでは活動弁士の坂本頼光さんとの延長戦でございます。よろしくお願いします。
坂本
よろしくお願いします。
清野
どうでした、放送の方は?
坂本
いやーもうだって全然足りないし、私の前説だけの気分でしたからね(笑)「もうあっという間だな、光陰矢のごとしだな」と思いましたよ。
清野
いやいや、まあ楽しい時間てことですよ。
坂本
ありがとうございます。
清野
僕も放送の中では言わなかったんですけどね、4月にはじめて観に行って。活動写真っていうのをはじめて観に行きまして。この歳まで1度も経験がなくて。
坂本
そりゃそうでしょ?普通はそうですよ。
清野
「いや、こういうものか!」と。やっぱりおっしゃってましたけど割と近いっちゃ近いんですよね。主役が映画というか映像でそこに音を付ける、声を付ける、しゃべりを付けるっていう。
だから自分は目立っちゃいけないんだけども、やっぱり個性は必要みたいなね。
坂本
そうなんですよね、しゃべり過ぎてもいけないし。かと言ってしゃべらないわけにもいかないんで。
清野
つまらないしゃべりだと、やっぱりダメだし。個性もいるじゃないですか?「あっ、坂本だからこうだ!」みたいなものも必要じゃないですか?
坂本
そうです、だから同じ作品でも私がやるのと別の弁士がやるのでは本当テイストが変わってくるんですよね。良い悪いは別としてですよ。ギャグとか「いれごと」って言うんですけど、ちょっとくすぐりみたいなのね。昔はよく失敗しましたよね。
清野
と言いますと?
坂本
例えばね、「グーッ!!!」みたいなの流行ったりしたじゃないですか?エドはるみさん。あういうのとかがブレイクしたときにちょっとそういうギャグとかをね入れたりしてもウケない。
「ワイルドだろぉ?」とかね、あういうのとかを入れてもウケない。それは私じゃなくてある弁士がやってドンズベりしていたのを私が見ていて「やっぱりやらんで良かった・・」とか思って。
清野
それはだからお客さんはそういうのを求めてないってことですよね?
坂本
そうですね、まあもしかしたらあとは怖々言ったからじゃないかとかね(笑)
清野
思い切ってガーンと行けば!
坂本
もっとぶっち切ってやっちゃったらね「ワイルドだろぉぉぉ!!!!」とかそれくらいやったら「お前全然元ネタとも違うじゃねえか!」みたいな。逆にそこで笑いが起こるかもしれない。そのあまりにも乱暴な使い方でね・・とかいろいろ思いますよね?
だから当意即妙にその場の情景をピシャッと上手くやれたらこんな良いことはないですね。
清野
これだから当然映画のストーリーを言うわけだから、あらかじめ台本があるわけですよね?
坂本
台本は自分で書くんですね。
清野
自分で書くんですか!?
坂本
原作があるものは原作を読んで、でも原作通りになってないですから映画ってね。やっぱり所々変わってますでしょ?だから例えば「国定忠治」とかあういうのもので「赤城の山も今宵を限り・・」とか有名なセリフとかはそのまんま映画でも使われてますけど。
ちょっと細かいストーリーが違っていたりしますから、そこは自分で考えなきゃいけない。「これはどういう感じなのかな?」とかね、やりとりとか上手くなんかしなきゃいけないっていうね。そこは苦労しますよね。
清野
うわーっ、そうなんですね。また坂本さんが面白いのはけっこうそのもともとある話だけじゃなくてご自身で新作を作ったりもあるんですね。
坂本
そっちは僕は一応B面のつもりなんですけど「いやいや、坂本くんはそっちがA面だよ」って・・すごい複雑で。
清野
ハハハハハ!そういうの言われると言われた本人はけっこう複雑ですよね(笑)
坂本
コナン・ドイルって作家がいるじゃないですか?あの人だって本当はあの人SF小説とかね、神秘小説とかの方が好きなわけですよ。だけどあの人は「本当はこっちの方が詳しいんだ」「本当はこっちが好きなんだ」って言ったって、みんな探偵小説の第一人者って思うでしょ?コナン・ドイルと同じにすると悪いけど・・
清野
いやでもそういうもんですよね。
坂本
みんなそんなもんですわね。
清野
でもオリジナルで作るって大変じゃないですか?だって道なき道っていうか・・型がないじゃないですか?
坂本
そうですね、でもそこは「この道を行けば・・」って(笑)
清野
あっ、猪木!
坂本
道はないんだけど、でもとにかく「この先を行けば!」ですよ。
清野
「迷わず行けよ」で。
坂本
迷ってますけど・・はい。でも迷いながらも行っている感じです。
清野
どうですか?でもその新作というのをやる人が他にいないから、やっぱり注目されるんじゃないですかそこで?個性が出るというか。
坂本
そうですね、自分で絵を描くということがないですからね、他の弁士はね。
清野
そうだ!だってもともと漫画家志望ですもんね。
坂本
そうです、漫画家志望というよりは水木しげるの弟子志望だったんです。水木しげる先生の弟子になりたいっていうことだったんですよね。
ですからね、もう小学校5年生ぐらいのときに水木先生のところに行ったんですよ。あのころはいいですねえ。講談社とかに電話すると家の住所教えてくれたんですから。
清野
えー!個人情報保護法がまだない時代ですからね。
坂本
それで行きました、アポイントメントも取らず。
清野
えっ、小学生のとき?
坂本
ええ、5年生のとき10歳かな?
清野
小5でアポ取らずにその住所に訪ねていった?
坂本
手紙を2回出したんですけどね、返事がなかったんですよ。「もう2回出したから行ってもいいだろう?」と思って、それで行ったんですよ。こどもの日でしたね(笑)
1990年5月5日、こどもの日であります。それで「こどもの日だからきっとアポイントメントを取らずでも会ってくれるのではないか?」という、あざとい子どもなりの悪知恵でございまして。それで行ってみたんですよ。
そしたらね、出て来たいきなり本人が!
清野
呼び鈴を押すんですか?
坂本
チャイムを押して、それで「開いてます」とか言って。それで入ったら先生がのそーって来て「あんたは何者ですか?」って言って(笑)
清野
怖くないですか?単純に大人ですよ、だって小5でしょ?小学校5年生からみて水木先生は怖いと思います。
坂本
いやーそんなことないですよ。いやでもそれは僕が好きな人ですから。全然威圧感も何もない方でしたからね。4歳からですから僕が水木先生を好きになったのは。そのころでももう既に5年越しですから。
清野
それで向こうは「あんた誰?」って感じで。
坂本
「あんたは何者ですか?」って(笑)
清野
何て返したんですか?
坂本
「いや、僕は手紙出した坂本頼光なんですけど」って言って「お返事がなかったんで来ました」って言って。
そしたら「まあじゃあ上がったらええですよ」って言って、それで応接室に通されたんですよ。応接室行ったらね、お母様がいらっしゃって琴江さんってお名前。水木先生のお母様ですよ。
清野
まだそのときはご健在で。
坂本
もう90歳ぐらいですよ。先生が確か68、9歳ですから。もうびっくりしちゃいましてね。最初「『のんのんばあ』ってこの人なのかな?」って思っちゃって「そんなわけないだろ!」とか思ったりとか(笑)
それでね「ちょっとあっち行っとれ」みたいなことを水木先生が言ってて(笑)
清野
それじゃあ1対1になるわけですか、応接で?
坂本
そう、それで水木先生はなんとなく背もたれにワーッてなってね、別にそれは睥睨(へいげい)するとか上から睨みつけるわけじゃないんですよ。普通に僕を観察していらっしゃって。
「あんたは何をしに来たんですか?」って、それで僕が「お弟子にして下さい」って言ったら「弟子っつったって、あなたはまだ少年ですからね」って言って(笑)
清野
でも、ごもっともですよね。それは漫画のアシスタントっていう解釈だったんですかね?
坂本
もちろんそうですよ、僕は絵も持って行ったんですから!つたないなりに。
清野
それはオリジナルの作品を?
坂本
いやもう先生の絵の模写ですけど。そしたら「点描が下手ですね」って。
清野
ちゃんと真似ができていないと。
坂本
そう!「キャラクターはよく描けてますけど、でもこれあなたサインペンですね」って言って「うちはGペンが使えないとダメですから」言って。非常に具体的でしょ?
清野
それもまた小学校5年生に言う感じでもないですよね?
坂本
でもうとにかく先生は点描なんですよ、水木先生の妖怪のキャラクターとかっていうのは割とシンプルな造形だったりしますけれども。背景がびっちり書き込まれている。あれはもう大変な点描をもうずっと延々と点描だけをやる人もいるわけですから。
清野
だからそういうアシスタントは欲しいけど、それができないんだったらやっぱり必要ない。
坂本
そういうことですよね。まあでも「また来たらええですよ」みたいなね。まだ子どもですからね。私も図々しいからその後はしょっちゅう行ってましたね。
清野
あっ、しょっちゅう行っていいんですか?
坂本
だからなんとなくお許しいただいた感じなんですよ。ただもう困った子だと思われたと思いますよ。
清野
それでやがてどうなったんですか?
坂本
でもさっきに戻りますけど、中学校2年のときに僕は活弁というのに出会って「面白いな」と思って1回水木熱がちょっと下がっちゃった。
清野
じゃあ水木熱に変わる熱がそこで生まれたってことですよね?
坂本
そうなんですよ、でも長いブーメランで数年前から水木先生の漫画を活弁しているんですよね。この間、見ていただいた通りですね「テレビくん」あれと同じですよ。あういうシリーズがいくつかあるんですが。
水木先生の短編を僕が説明するっていう。それは何かものすごい形が変わってますけど。なんとなく一緒に仕事ができたようなね。
清野
遠回りだけどアシスタントをしているような。
坂本
アシスタントでも何でもないんだけど、何かとにかく先生と公式に何かできたっていうのが嬉しい。
清野
きっと喜んでらっしゃいますよ。
坂本
もうちょっとというときに亡くなられちゃったんで、生で観ていただいてはいないんですよね。でも奥様の布枝さんが観て下さって。「水木が生きてたら喜んでましたわ」とか言って下さって。
清野
いやもう最高じゃないですか。やっぱりそういう子どものときの初期衝動というかね・・つながったというのはやっぱりいいですよね、年月経ってね。
坂本
そう、なんかその初期衝動のままで生きてますよね。
清野
なんか気持ち僕も分かりますよ。
坂本
好きなものが増えないんですよ。何かもうとにかく原点、しゃべること・描くこと・水木しげるとかそういういくつかの好きなものであとは全然変わりませんね。
清野
僕も割とそっち側のタイプの人間なんですよ。気持ち分かるな、増えないんですよ意外と!
坂本
だって清野さんは僕より6つくらい上でいらっしゃいますけど、清野さんの周りだってそんなにプロレスが好きな子どもがたくさんいたわけじゃないでしょ?
清野
うーん、まあ僕の時代はけっこうゴールデンタイムの時代だったんで小学校のときはいっぱいいたんですよね。それでだんだん減っていったって感じ。中学でガサッと減って高校でガサッと減って。
坂本
あとは深夜になると本当に。
清野
また減っていってって感じですね。
坂本
やっぱり芸人になると多いですからプロレス好きな人が。
清野
なんか芸人の方は多いですよね。やっぱり寄席とか行くと感じます?
坂本
感じますね、だからプロレスと麻雀だけは覚えときゃよかったと思いますね。うちは時代劇とかは観てましたけどプロレスは見せてくれなかったんでね・・。
清野
チャンネル権が・・おじいさんがあまりお好きじゃなかったと。
坂本
みたいです。
清野
まあまあプロレスは知らなくても大丈夫ですよ。知っててもいいけど知らなくてもいいっていう。
坂本
それは活弁も一緒ですけどね(笑)本当に。知っている人はよーく知っている、知らない人は知らない人は全く知らない、知らなくてもいい。そういうこと。
清野
ハハハハハ、似てますねじゃあ僕らやってること(笑)
坂本
似てますよ。
清野
今後こういうことをやってみたいっていうのはあります、ご自身の表現で?
坂本
ちょっと領域侵犯になっちゃうかもしれないですけど、僕はやっぱりニュースとかやってみたいなと。活弁としてですよ。普通のストレイトナレーションとかもう全然できませんしね。
やっぱり弁士的なしゃべりで世の中のことを説明できたら、新作としてこれはこれで面白いかなと自分で作るアニメとは別でね。それは面白いかな?と。
そうすると伝えにくいものも・・要するにエンタメとか娯楽で伝えにくいことが多いじゃないですか、最近?つまりシャレにならないことが多いでしょ?
だけどニュース映画的な体で私のしゃべりでやったら何か伝えられるんじゃないかと、面白く。でも不謹慎だとかって怒られるかもしれませんけれども。
でもその不謹慎で怒られたってことも活弁でやっちゃうとかね。どんどんどんどん重ねていっちゃう感じですね。
清野
だからプロレスですよね「リングの上でやっちゃえばいいんだ」っていうね。
坂本
だからそういうのをやってみたいかな?って。
清野
だからライブはやっぱり面白いですよね。本当に考えてもないことが起きるでしょ?
坂本
起きますね、この間も映写が途中でフリーズというか映んなくってね。
清野
あれでもすごいなと思ったのが、とっさにフォローされてたじゃないですか?
坂本
あっそうそう、あういうことはあんまりあって欲しくないけど。あのときに上手く乗り切ったらそこで拍手があったりすると「やっぱり面白いな」と思いましたよね。
「永遠の闇が続くのか?」みたいなね、だんだん最初はね「今日ご覧いただきますのは伊丹十三のお父さん伊丹万作監督の代表作『国士無双』であります」ってちょっと様式的にしゃべっていたわけですよ。
だんだんトラブルになってくるから「はあ、いったいどういうことでございましょうかね?しばしお時間を頂戴いたします」
「いやいやいや、おおこれは一体どうなっているのか?さあこのまんま映らないで一体どうなってしまうのか?」「この400人のお客さんを相手に・・」とかだんだん口調が変わって来てんの(笑)
清野
あれは面白かったですね。
坂本
「本当に・・本当でしょうか、皆さん!」とかね(笑)
清野
だから観てて僕が思ったのはあういう予定外のことが起こると観てる側はすっごく楽しいんですね。やってる側はけっこう焦りますけど。「ああ、やっぱりこれだな。観るのも観せるのもこれだよな」って思いましたね。
坂本
全部頭からしまいまでカッチリ上手くきまったものっていうのと別で本当に突発的なことがあるときに何か地肩が出るというかね。あういうのはありますわね。
清野
でも本当いろいろとライブでやっていく中であると思いますけれども期待しておりますので。
坂本
ありがとうございます、今度ぜひゲストで何かやっていただきたいと思います。
清野
何かできそうな気がするんですよね、僕も。
坂本
清野活弁っていうのは絶対あるし、ちょっと怖いけど仲間としてやっていただきたいなと。たまに(笑)
清野
いいですね、僕もぜひちょっと。僕も観てて「これはちょっと実況と重なる部分があるなと思いましたんですね」僕がやろうとしていることに近いような気がします。
坂本
ありがとうございます。
清野
そんな感じでそろそろお時間でございます。
(了)