大森靖子が語る「自分は風俗資料になりたいと思っているので自分と一緒に歌詞も古くなっていけばいい」

2016/09/28

MD Session-22 荻上チキ 歌詞 銀杏BOYZ 固有名詞 赤い公園 大森靖子 南部広美

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今回は2016年2月16日放送「荻上チキ Session-22」
「ミッドナイトセッション」大森靖子さんの回
起こしたいと思います。


南部
今夜のお客様はシンガーソングライターの大森靖子さんです。よろしくお願いします。

大森
よろしくお願いします。

南部
では、大森さんのプロフィールを紹介させていただきますね。

大森靖子さん、1987年生まれ愛媛県のご出身です。弾き語りを基本スタイルに美術大学在学中に音楽活動を開始し2013年にファーストフルアルバム「魔法が使えないなら死にたい」を発表。



「激情派」とも呼ばれるパフォーマンスや歌詞の世界観がすぐに口コミで話題になり、レーベルや事務所に所属しないままチケットを手売りした渋谷クアトロでのワンマンライブはソールドアウト。

更にカーネーションの直枝政広さんプロデュースのセカンドフルアルバム「絶対少女」も話題となり、2014年に「きゅるきゅる」でメジャーデビューを果たします。





昨年秋に男の子を出産なさって活動を休止していたのですが、今年活動を再開。ご自身の半生を私人の最果タヒさんと共にまとめた1冊「かけがえのないマグマ 大森靖子激白」が毎日新聞出版より発売されました。



荻上
タヒさんにはこの番組にも何度かお越しいただきましたね。

南部
そして日付変わって今日音楽プロデューサー亀田誠治さんとはじめてタッグを組んだ「愛してる.com」。ソウルフラワーユニオンの奥野真哉さんをサウンドプロデューサーに迎えた「劇的JOY!ビフォーアフター」の両A面シングルをリリースされます。

荻上
また曲によって顔つきというか、表情がずいぶんと変わりますよね。これはどんな方にプロデュースしてもらうのか?みたいなものは作曲で頭でメロディーを奏でているときなんかも意識とかされるものなんですか?

大森
しない場合が多いですね。できてから、こういう音が欲しいから。たまに「この人と組もう」と思って曲を作ることとかあるけど、あんまりめったにないですね。

荻上
できあがってから探し始めるっていう格好ですか?いつも大森さんの方から「こんなに方がいい」っていうふうにオーダーされるんですか?

大森
そうですね、基本的に会ってみてセッションをしてみて良かったなっていう人とまた仕事がしたいって言って頼むことが多いですね。あんまり会ったことのない人とは・・。

荻上
じゃあ1回どこかでセッションをして。セッションをする機会っていろんなところであるんですか?

大森
そうですね、ライブとかでご一緒した人とっていうのが多いですね。

荻上
じゃあ亀田誠治さんとはどこかで何度か?

大森
フェスで「JUDY AND MARY」さんのコピーをするっていうのをやりました。

荻上
亀田さんが当時はパートはベースで入っていただいて、大森さんはギター・ボーカルで?

大森
ボーカルで。「赤い公園」の津野米咲(つのまいさ)ちゃんがギターで。



荻上
そうやって活動でいろいろ重なってきた方に「今度あの人にお願いしよう」っていう形でされているわけですね?何か自分からセッションからお願いするっていう方もいらっしゃるんですか?

大森
・・はないですね。たぶん出会っていって、いつかは出会っていくだろうみたいな。なんか身を任せている感じはありますね。

荻上
じゃあ何か設計的にというか「こういうふうに音を作ってみたいから、この人とやってみたいんだ」みたいなことはあまり計算せずに?

大森
あまりやったことないです。

荻上
もう興味があることがいっぱいで、僕ばかり聞いてもあれなんですけど。リスナーの方からも既に質問が来ているんですよ。




質問
チキさん、南部さん、そして靖子ちゃん、こんばんは。今日は靖子ちゃんの登場を楽しみにしていました。音楽論、大好きなアイドル論、そしてママ論とチキさんとどんなトークになるのか?楽しみにしていました。

ちなみに自分は3年前に「TOKYO IDOL FESTIVAL」で聞いた「新宿」でファンになりました。



荻上
「新宿」の歌詞もとても良いんですよ。

南部
この番組でもね。

荻上
少し取り上げましたけど、やっぱり新宿っていう街は他の人で弾かれた人たちも受け入れる度量の広さみたいなものを感じますよね?

大森
そうですよね、一番いろんな服を着ている人がいるので。渋谷とかだいたいこういう服を着ている人がいるとか、そういうイメージがあるんですけど。

荻上
「渋谷系」とか「原宿系」とかなんとなくありますけど。

大森
あんまりそのイメージがないので・・弾かれる感じもしないっていう。

荻上
水商売の方もいれば、ちょっとカタギじゃないぞ系の方もいれば。でも飲みに来ている大学生もいればという感じですよね。

大森
けっこうそれが愛媛出身なので、愛媛から見る「東京」っていう感じに近い街ですね。

荻上
愛媛から見た東京のイメージってどういうイメージを持っていたんですか?

大森
本当に「表現をしていい場所」っていう感じで。愛媛の人みんな優しいんですよ。「坊ちゃん」っていう小説あるじゃないですか?あのまんまのイメージです、あれで時が止まっているんですね、本当に(笑)

荻上
「赤シャツ」みたいなやつが出てきてみたいな。



大森
で、けっこう勉強が進んでいて「ここでは違うあぶれたことを考えたら撲殺される」という印象ですね。本当、優しい人と温和な人しか生きていってはいけないみたいな気持ちになってしまう。

南部
そこに入れないとなると、居場所が・・みたいな。

荻上
個性が際立つとちょっと出る杭は打たれるじゃないけれど?

大森
そうですね、そんな感じはあります。ミーハーで、みんな優しいんですけどね。旅行に行くには良い場所だと思います。

荻上
でも住むにはちょっと生きづらさを感じたっていう?・・個人の感想ですけどね(笑)大森さんは本の中に書かれていましたけれども、当時学生時代から髪の毛を染めたりとかされていて。けっこう浮いていたっていう話を書かれていましたね。

大森
そうですね、私立の受験をするような学校だったので。染めているだけでけっこうヤンキーみたいな感じの学校でしたね。

荻上
あと「染めてる=援助交際」みたいな扱いをされたとか?

大森
ただ起きれなかっただけなんですけど。学校をサボっていて、まあタイムリーな感じだったんでしょうね。援助交際とか連れ去り事件とかけっこう流行っていて。

荻上
「きっとあの類型に違いない」みたいな型をはめられたという感じですか?新宿とか東京とかだとより「型」が多いというような感じなんですかね?

「型」の話でもそうですけど、このリスナーの方がくれたメールで『ママ論』という話がありましたけれども。何か母親になってから考え方の「型」とか自分の置かれている「型」とか変わりましたか?

大森
時間の使い方みたいなのが一番変わったなというのが多いです、単純に。「子どもが泣くまで」というタイムリミットがすごいあるので「それまでに仕事を済ませなければ!」とか。

仕事に行くときも新生児期の1秒で表情が変わるような時間を犠牲にして渡しはいま仕事をしているんだ!と思うと、自分で自由に時間を使ってよくてどこまでも考えを深めてよくてっていうときじゃなくなるので、過ごし方はちょっと変わります。

荻上
何か見えない手綱で子どもとつながっているような感じがして。

大森
そういうのはありますね。あと社会に対しても若干変わりますね。

荻上
何か見方が変わりました?

大森
妊娠していたときにちょうどデモとかが一番盛んに行われたときなんですけど、たとえデモしている人と考えが同じであったとしても私はそこに行ったら自分のお腹の中の子どもは死ぬじゃないですか?その騒ぎに例えば人とぶつかったりするだけで。

いろんな平和の守り方があるんだなとか、すごく多角的に見ないと行けなくなるので・・自分の周りの平和っていうのが守れなくなるので。でもいろんな平和の守り方があるなと思ってそういうのはすごい考えましたね。

荻上
お母さんたちでもデモに参加する一方で、そのお母さんたち子どもたちに向けて給水車を出すとかそういうはずのデモであったりしましたね。

大森
1個のやり方に没入してしまうと、それが逆に悪い方向に行ったりもするじゃないですか?だからすごいそういう冷静な目線みたいなものは何をやるにしても持たなければいけないんだなっていうのは思いました。

荻上
じゃあ別にストリートに出なくても家でできることもあれば、自分の役割だからできることもあるみたいな?

大森
そうですね。自分の立場は何だろう?っていうのは、まあ自分は音楽なので。

荻上
音楽でできることを?

大森
社会人なんで世の中をよくすることをやらなきゃいけないんで。自分にできるのは何だろう?っていうのはすごく感じますね。

荻上
仕事ってどの仕事も基本的には人の変わりに何か役に立つっていう部分だったりするじゃないですか?

音楽というのは人が自分を励ますのが下手な人には代わりに励ます言葉を捧げたりとか、何か一人だけで高揚できないときにはそこに良いメロディーを捧げたりとかいろんな仕事のサポートになる役割もありますよね?

大森
生活は絶対豊かになると思ってやっているので。

荻上
大森さん自身も音楽によって生活は豊かになったという実感はあるんですか?

大森
ありますね、私はMDの世代なのでMDに自分の好きな曲を入れるんですけど。私はすごい同じ曲をずーっと聞くというのが好きだったので1曲目から10曲目までずっと同じ曲を録音したりとか。

荻上
エンドレスリピート機能はなかったんですか?

大森
あったんですけど、それをずっと全部入れて「M1」にしても「M10」にしても同じ曲がかかるっていうのが好きだったりとか。

2曲目だけ違う曲を入れるとか、そういうのがけっこう好きでそういう聴き方をしていました。

南部
繰り返し入れた曲ってなんですか?

大森
銀杏BOYSの「SEXTEEN」っていう曲です。



荻上
銀杏BOYSさんが好きで対談もされてましたもんね。

大森
ミカンが降ってくるんですよ。

「街にはドボドボとミカンが降ってきたし
 僕等は踏みつぶして 蹴りながらキスをしたし」

私はけっこういろんな曲を聴いて共感するっていう感覚があまり分からなかったんですけど。愛媛出身だし「踏みつぶして蹴りながらキスをする」って気持ち良いだろうなっていうその感じはすごい共感できるぞ!と思って

「美しい!」と思って、そればっかり聴きながら自転車をこいでいて。それを聴きながらだとすごい気持ち良かったんですよ、自転車をこぐのが。

荻上
普段はやっぱり歌詞を聴くタイプですか?

大森
聴くタイプです、歌詞とメロディーが好きで。

荻上
世の中には歌詞全く聴かないタイプの人もいれば、歌詞こそが重要だっていう人もいますからね。

大森
どっちの人も好きなんですけど。私はどちらかというと歌詞派。あとメロディーですね、転調オタク(笑)

南部
何がツボとかあるんですか?

大森
転調っていうのは小室さんが一番推進していった方だと思うんですけど。小室さんが女性をエロティックに見せるための文化だと思っていて。

小室さんのメロディーっていうのはすごい良いメロディーなんですけど。J-POPっていうのはサビで盛り上がるのが多いと思うんですよ。でもサビで盛り上がるって往々にして盛り上がり過ぎなのでちょっとワザとらしいメロディーが多いんですけど。

小室さんの曲っていうのはサビもAメロとかBメロとか同じ温度ですごい良いメロディーなんですよ。それをどうサビにするか?って転調なんですよ。それで成立させていった小室さんの音楽を進化させたのが小室さんの女性プロデュースだと思っていて。

女性プロデュースで転調をすると、ちょっと無理な音域を出すのでエロティックになるですよ女性が。

荻上
ちょっとうわずった感じがというか、変化するわけですよね声色が。

大森
それのオタクです(笑)

南部
そこがもうわしづかみにされると。

荻上
じゃあアイドルソングで転調するようなものとかあったりすると?

大森
もう超興奮しますね。

荻上
興奮っていうのは!いま明らかに音楽とは違う何かを感じましたね、リビドー的な何かを(笑)

大森
そうですね、はい。

荻上
でも音楽にはいろんな感じを引き取って行くようなところがありますからね。普段やっぱり言葉選びという観点からいうと、さまざまなニュースを見たりするときも大森さんは言葉の使われ方みたいなものはけっこう気にされる?

大森
気にしますね。流れていく言葉と流れない・止まる言葉が自分の中であって。

荻上
大森さんの歌詞の中には現代的な固有名詞でおそらく数年経てば古びた歌詞になるであろうというようなものというのがむしろ選択されて、今の風景としてあったりしますよね?それはやっぱり意識的なんですね。

大森
はい、そうですね。「自分は風俗資料になりたい」と思っているので。

荻上
人によってはあえて抽象化しないと10年、20年生き延びられないと。「ポケベル」って入れるともう過去の歌なんだなっていうふうになっちゃうみたいに避ける方もいるんですけど・・

大森
もう音も言葉も両方古くなりたいですね。自分と一緒に古くなっていけばいいと思ってます。

荻上
古いからこその価値があるみたいな感じですか?

大森
いや、もう自分の意思としても死んだ後に評価とか別にされたくないし、どうなってもいいんで。とにかく自分が生きてきた風景とか見てきたものをそのままを見てもらってそれをどう感じるか?っていう方が絶対面白いと思って。

南部
今を常に刻んで行くみたいな感覚なんですか?

大森
自分を入れたいというよりも自分の見たものを人に見せたいっていう気持ちの方が強いので、それを切り取らないとなっていうのは思っています。

荻上
そうした切り取り方のときにまず固有名詞ってすごく引っ掛かるものですよね?

大森
あと単純に弾き語りで活動していたので、面白い固有名詞をいっぱい出していかないと音の数的に情報量がすごく少ないので超つまんないっていう(笑)

なので言葉を面白くするっていうのはずっと考えてて、自分の引っ掛かった言葉を落としていくっていう作業みたいな感じでライブはやってました。

荻上
ある種の瞬発力みたいなものですよね。ストリートで弾き語りをされていたっていうこともあるわけですか?

大森
ないですけど・・

荻上
基本的にライブでっていうことですね。でも大森さんのことを知らない客をガチっとロックするためには「おっ、何その単語!歌っているの初めて聴いた!」みたいな。

大森
ライブなので1曲として話の流れがどうかなんて、そんな器用に聴けないので。やっぱり1分とかの間にどんな流れがあったかっていう方が重要なので言葉の流れとしてはそういうふうになっていきます。

荻上
だから一見すると断片的な歌詞の連なりというのが大森さんの作品の1つのスタイルになっているんですね。後ほどまた大森さんの歌詞論についても聴いていきたいなと思います。

(続く)

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