2011/09/29

水道橋博士と町山智浩が語る映画「監督失格」

今回は、
2011年9月2日(金)小島慶子キラ☆キラ
3時台のコラムのコーナー コラ☆コラ-町山智浩さんを起こしたいと思います。


東京で先行上映され10月1日(土)から
全国公開する映画「監督失格」について、

水道橋博士と語っています。

音声はこちらから




町山智浩(以下、町山)
今日はですね、「監督失格」という日本映画ですね。
それを紹介します。

水道橋博士(以下、博士)
見た人、みんな打ちのめされてるんです。

町山
これはすごいドキュメンタリーなんですけど、
これはですね、エヴェンゲリオンシリーズの監督の
庵野秀明さんがプロデュースして、
音楽を矢野顕子さんが書き下ろしの主題歌をつけているということで、
今話題になってるんですけども。

これはですね、2005年に34歳で亡くなった
林由美香さんの女優さんについてのドキュメンタリーです。

林由美香さんって人は、アダルトビデオとかピンク映画に
200本くらい出てた人なんですよ。
すごい数出てた人なんですけども。
この人については大ファンである水道橋博士から
説明して頂けませんか?



博士
はい、林由美香さんって「博士の異常な愛情」っていう本を
書いてるんですけども。
その中の1章をつかってまさに「博士の異常な愛情」っていう
林由美香さんについてだけ書いた文章があるんですよ。

林由美香さんって89年にデビューして
僕のもっとも好きなアダルトビデオの女優さんで、
その後、イメージクラブで働いてた時に僕は会いに行くんですよ。
それでそこで、AVコースつって自分が監督になって撮れるサービスがあって、
そこで一緒に撮ったんですよ。
それを「博士の異常な愛情」って僕は題してテープで持ってたんです。

その後、林由美香さんとはすごく仲良くなるんですけど、
亡くなられた時にはこの文章を書いて追悼したんですけど、
その文章を町山さんに参考までにって言ったら、
「博士が絶対に語るべきだ!!」っていうふうに言われて。

僕自身もものすごい思い入れがあって、
この映画を観た時にいろいろ感想を求められた時に
言葉を逸したというか、これは僕の中で感情が
センチメンタル過ぎて語れない!って思った作品ですね。

町山
そうなんですね。
この監督は平野勝之さんっていう方なんですけども、
この人は林由美香さんが亡くなった現場にいたんですよ。
で、その時にビデオを回してるんですよ。
しかもその後、亡くなったのは2005年なんですけど、
全く映画が撮れなくなっちゃったんですよ。

博士
ショックでね。

町山
っていうのは、平野さんも林由美香さんと恋愛をしていて、
好きだったんですよ、本当に。
林由美香さんっていう人は、いわゆる「ミューズ」と呼ばれる存在なんですね。
で、水道橋博士であるとか、AV監督はもちろん、普通の映画監督であるとか、
俺の相棒の柳下毅一郎って映画評論家であるとか、
切通理作っていう評論家であるとか、そういった物書きとか芸術家とかマンガ家とか
そう言った人たちがみんな林由美香が好きで、
彼女とのふれあいとか、彼女によってインスパイアされて作品を生むというですね。
そういうのを「ミューズ」っていうんですよ。

博士
割とAVとかっていうのは、1年半とか2年くらいで辞めていくんですけど、
ずっと林さんはこの業界に残ってピンク映画とかも出たりしたんで、
作家はみんな林さんにこう思い入れがあるんですよね。元々観てるから。

町山
で、色んな作品が彼女との付き合いの中から生まれてくるっていう
形の女優さんだったんですけれども。
顔はね、猫みたいなしてる人ですね。

小島慶子(以下、小島)
お写真が手元にありますけど、そうですね。
丸顔に目がクリッとして。

町山
で、おっぱいが全然無いんですよ。
ぺったんこだったんで、僕の射程外だったんですが(笑)
って関係ないか!まぁAVとしてはね・・。
博士、林由美香さんの魅力って何ですか?

博士
やっぱりね、顔もロリータ・・。とびっきり大きいんですね、瞳が。
で、江口寿史のマンガに描かれるような美少女なんですよ。
それで、作品自体はすごく過激なんですよね。
過激なところまで表現してしまうから、
監督たちもそこのAVというものを撮っていることで、
そういうAV以上のものを撮りたくなってしまうんですよね。
その関係性の中で。

で、平野監督の名作になっていったのも、
監督には奥さんがいたんですけれども、
「わくわく不倫旅行」って題して
ロードムービーになっていくんです。
AV作品なんだけれども、なぜかそういう恋愛映画みたいになって
、一般公開もするみたいなね。

町山
97年に平野勝之さんっていう監督が林由美香さんと二人で北海道まで
東京から自転車で旅行するんですね。
その間、けんかになっちゃうわけですよ、どうしても。
で、言い争いになったりとか途中で「これ以上行けない」とか
そういうのをずっとビデオで撮り続けるっていう・・。
まぁアダルトビデオとして作られたんですけども、
一般映画として公開されて、不思議な恋愛映画として公開されるんですよ。
平野監督自身はその時奥さんもいるのに、
そういうことして、いわゆるハメ撮りもするし、
しかもその林由美香さんの目の前で奥さんの話をしたり、
奥さんに電話をしたりするんですよ。

小島
それはちょっとあれだなぁ・・。

町山
はっきり言って、失格な人間なんですよ。恋人としてね。
すぐケンカして怒るし、この監督は。
もう本当に絶対モテない感じの人なんですけれども、
林さんはたぶんねこのモテなそうな男たちが、
心を開くことが出来る女優だったと思うんですよね。

僕自身は全然あったことはないんですけども、
カンパニー松尾さんって非常に有名なAV監督がいるんですが、
この人もドキュメンタリータッチのAV監督なんですけども。
この人も彼女の元恋人で林由美香さんのお葬式の時の出棺の
棺を抱える人たちは、何人かわからないけど10人くらいの人たちは、
全員元恋人だったんですね。
しかも、その恋人の人たちが全員仲が良いんですよ。
全員、林由美香にフラれた人たちですよ。
フラれ仲間?みたいな感じで。
それで彼女によって繋がってるんですね。

博士
普通、仲悪くなりそうなものなんですけどね。

町山
ねー!そうじゃないんですね。
林由美香さんって猫みたいな感じの人なんですけど、
媚びないんですよ全然。
会話しているところとか映画の中に出て来るんですけれど、
普通女の人って2面性があるじゃないですか?ヒドイのになると、
声が変わったりするじゃないですか?男と話す時に。
この人は全然それが無い感じなんですね。

小島
手元にあるいっぱいお写真が載っているチラシにも、
ニコッとカメラに笑いかけて可愛く写ろうとしている写真が
あまりないんですよね。

町山
この人何でもズケズケ言っちゃう感じで、
だからね女の人と付き合いにくい男ってのは、
女の人の2面性が怖いんですよ。

小島
ああ、使い分けが怖いんだ。

町山
だからね、スーッっと心は開けるんだけども
林由美香さん自身は、もっと大きな男を求めてるから
、結局切っていくんですね。
それで彼女自身の人生も語られて、
10代の時に家出してですね、
その後、10代でお金が無くなっちゃったんで
処女をお金で売ったりですね。
そういった非常に激しい経験をしてる話もしてるんですけども。

で、彼女自身の大きさに比べると、
周りにいる男たちが本当にちっちゃいんですよ。
でも彼女は包容力があるから、受け止めるんだけども。
結局、男としては十分じゃない人たちなんですね。

博士
なんか彼女の中に、監督を育ててあげるみたいな感じで
作品に出る感じもありましたよね?

町山
そうなんです!
だから完全に彼女と付き合うことでもって、女性経験がなかったり、
人数経験のない男たちが彼女と付き合ってフラれる事で、
男として成長していくっていうことを繰り返してるんですよ。

だから、作家とか監督育てる
「ミューズ」ってみんなそうなんですよね。
あのゴダールですらそうだったんですよ。
ゴダールどう見てもモテないですよ!若ハゲだし。
ブサイクで屁理屈ばっかり言ってるし!
でもすげー綺麗なアンナ・カリーナっていう女優に
惚れることで映画が作れたんですよ。

で、ゴダールはフラれて本当に軽蔑されて、
「軽蔑」っていう映画を撮るんですよ。
でも彼は成長したんですね。
そういう女優さんっていうのは歴史上いっぱいいるんですよ。
そういうひとりだったと思うんですね。

小島
あのー、ご自宅で亡くなったところを監督が見てるってのは、
事故的に亡くなったんですか?

町山
これはね、映画の中で後半に出てくるんですけども、
監督が林由美香さんと不倫関係から別れて
しばらくしてドキュメンタリーとして過去を清算しようとして
林由美香さんに会いに行くんですね。
会いに行こうとしたら、待ち合わせ時間に来ないんで、
自宅にいくっていう展開なんですよ。ビデオを持って。
その日撮ろうとして持ってたから。

博士
第一発見者ですよね。

町山
そうなんですよ。
非常のその当時疑惑が持たれて、
「なんで死んだ現場にカメラがあるんだ?」ってことで、
一時このビデオは封印されてたんですね、5年間くらい。
そういうかなり衝撃の映画でもあるんですけど。

博士
林さんのお母さんも有名なラーメンチェーン店の社長さんで、
キャラクターのある方なんですよ。
その人とお母さんの相克というか、行き違いができてしまうんですよね。
それが時間が経つに連れてそこがお互いが林由美香が好きだったということから、
打ち解けていく時間っていうのがまた必要だったんですね。

町山
「監督失格」っていうタイトルは、
この監督自身が自分をさらけ出すことによって、映画を撮ろうとする
私小説的な監督だったにもかかわらず、それが出来てないんで、
林由美香に「監督失格だね」って言われるシーンがあるんですよ。

非常にみっともないケンカを彼女としちゃうんだけど、
その時カメラを合わせてなかったんですね。
だから、「あんた監督失格じゃない」って言われるシーンがあるんですけども、
それを克服しようとする映画なんですね。

それでプロデュースを庵野秀明さんがやることになったっていうのは、
エヴァンゲリオンも実はそういう作品だったんですよ。
エヴァンゲリオンっていうのは、ロボットアニメですけども、
実際は庵野さん自身の恋愛体験みたいなもののみっともなさとか、
恥かいた部分っていうのを打ち出してるんですよね、作品の中に。

実際の恋愛経験が出てるんですよ。
そういうことをアニメでやった人なんですけれども、
彼がそれをさらに突き進めようとして「ラブ&ポップ」っていう
実写映画を撮ろうとするんですよね。
それはその当時、援助交際っていうのが流行ってたんで、
いわゆる女子高生とかとオヤジが付き合うやつですけど、
それを庵野秀明さん自身が実際にやろうとしたんですよ。
それでドキュメンタリーみたいにして撮ろうとしたんですよ。
すごいことですけどね(笑)

その時に平野勝之監督の「由美香」っていう
自転車で北海道に行く映画を見て、衝撃を受けて、
「僕にはこれは出来ない!」と思ったらしいんですね。

博士
表現者としては、驚きますよね。
ジャンルは違うけど。
剥き出しな感じが、ここまでやれるのか!っていうのが。

町山
そうなんですよね。
結局、庵野さんはそれは出来なかったんですけど、
平野監督と仲良くなって、今回その「監督失格」を撮る時は、
なかなか彼(平野)自身は林由美香の死を乗り越えられてないんで、
なかなか撮れないでいたんですけど、
そのケツを叩いてこの映画を完成させたのが庵野監督らしいんですね。

で、一番最後のラストシーンのとこで、
すごいシーンがあるんですが、
それは庵野監督のプレッシャーによって
はじめて映像化されたシーンだそうです。
つまり、「お前はまださらけ出してねぇーじゃねぇか!」っていうことを、
やったんですね。
まぁ、柳下くんのインタビューで知ったんですけどね(笑)

映画を撮るとかの表現がどれだけ自分をさらけ出して、
恥かいてやるかってことが最近あまり問われてないですけども、
久々に問われてる映画だなと思いましたね。

博士
原一男監督って「ゆきゆきて神軍」撮られた方いますけど、
その人の昔のドキュメンタリーでこういう作品ありましたもんね。

町山
はい、自分の子供を愛人が生むのを撮影するんですよ。

博士
出産シーンを撮ってるんですよ。

町山
それも、自分のもう一人の女に撮らせているのかな?
奥さんかなんかに・・。すごいんですよ。
しかも、その生んだ息子さんが自殺したあとに、
その息子への贖罪のためにインドかなんかの山登るっていう
ドキュメンタリーも撮ってるんですね、自分自身が。

それはNHKで放送されたと思うんですけど、
息子の名前を叫んで、「ごめんよ!ごめんよ!」って
言いながら山を登るんですよ。すごい映画を撮った原一男さんですけども。
それに近いものはありますね。
影響下にあるでしょうね。そういうかなり強烈なものですね。
だから、アダルトビデオとかピンク映画っていうのを
全然超えた内容です。

小島
矢野顕子さんの音楽なんですね?

博士
最後にこの曲がかかるんです。

町山
そう!矢野顕子さんがこの映画を見て、
書き下ろしをしてくれた歌らしいんですよ。
で、林由美香さん自身は睡眠薬で亡くなってるんで、
なくなるまで林由美香さんを受け止めてくれる理想の夫は
見つからなかったんですけどね。
だからそう言った形で、睡眠薬とお酒にどんどん溺れていくって
ところはあったと思うんですが、これは推測ですが・・。

ただ、そういったことを描いた映画の最後に
矢野顕子さんが作った歌のタイトルがですね、
「しあわせなバカタレ」っていう歌なんですよ。
この内容で何故「幸せなバカタレ」なのかってことは、
考えてもらいたい、考えようというところですね。

凄まじい内容だと思ったと思うんですけども、
それに対して矢野顕子さんは「しあわせなバカタレ」という
歌を作ったということで。







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