今回は2015年5月18日放送「荻上チキ Session-22」
セッション袋とじ「阿古真理『料理研究家』」の回を
起こしたいと思います。
南部広美(以下、南部)
今夜のゲストは作家で生活史研究家の阿古真理さんです。よろしくお願いします。
阿古真理(以下、阿古)
よろしくお願いします。
南部
阿古真理さんプロフィール紹介します。1968年生まれ、ご出身は兵庫県。神戸女学院大学文学部を卒業後、広告制作会社を経てフリーになられます。
1999年から東京の拠点を移しノンフィクションのお仕事を精力的に取り組まれ、食を中心に暮らし全般。女性の生き方などをテーマに執筆なさっています。
著書に「うちのご飯の60年 祖母・母・娘の食卓」「昭和の洋食 平成のカフェ飯 家庭料理の80年」「昭和育ちの美味しい記憶」などがあり、先日には新刊「小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代」を新潮新書から「和食って何?」をちくまプリマー新書から出版なさいました。
荻上チキ(以下、荻上)
いろいろ本出されてますけど、やっぱり「食」が中心?
阿古
そうですね、続いてますね。「食」はあの・・食いしん坊なので(笑)
荻上
食べるのが好き?
阿古
食べるのが好きですね。
荻上
作っていろいろ食べるのと、食べ歩くのと、あるいは買ってくるのとどうですか?
阿古
あのー、作って食べる方が圧倒的に多いです。
荻上
あ、本当ですか?
南部
得意料理は何ですか?
阿古
得意料理?いろんなアレンジをするサラダとか、レパートリーは少ないけれど炊き込みご飯とか・・そうですね。
南部
炊き込みご飯ってものすごい賭けだなって私、料理の中で思っちゃうんですよ。
荻上
どういうこと?
南部
完璧に調味料とかねそういうのをセットして、でも炊きあがるまで成功か失敗かがちょっと途中で調整できないっていうか・・で、出来上がってみて「あっ!ごめん、今日の芯が残ってた!」とか。
荻上
それけっこうしっかり作るタイプじゃないですか?
南部
えっ、炊き込みご飯って・・?
阿古
多いのはタケノコご飯・豆ご飯・キノコご飯・・
荻上
栗ご飯とか?
阿古
栗ご飯はちょっとですけど・・栗が面倒臭かったので長らく(笑)で、サツマイモご飯?あのあとアサリの炊き込みご飯、この辺の季節の食材というものでやるのが好きで。
かやくご飯、椎茸とか人参とか入れるやつは1人暮らしのときに実は作って会社に行って帰ってきたら腐ってたっていうのに出会って、その後作ってないんですよ(笑)
荻上
最近、炊き込みご飯の素みたいなものが売っていて、ご飯を普通に水を入れてそこになんかボトボトボトって封を開けたやつを入れたらもう美味しくできちゃうので、なんか助かってます。
南部
ああ確かにね・・それであってもなんか炊きあがるまでちょっと「大丈夫かな?大丈夫かな?」っていう気持ちになってしまいがちな・・
荻上
でも開けちゃダメなんですよ。
阿古
煮物とか作るときに味見をしなくても大丈夫になったら炊き込みご飯はできると思います。
南部
ああ・・それけっこうハードルあるなあ。
阿古
でもそれこそ本の通りに分量大さじ1杯とか測ってやれば大丈夫だと。
南部
なんですよね!なのに、測って完全に「えっどこで何がどう間違ったのか分からない!?」っていう炊き込みご飯だけはね、失敗の確率が私の場合は高いんです。
荻上
えっ、それは炊飯ジャーを使ってるんですか?
南部
ジャーを使っても。
阿古
炊き込みご飯モードでやってても?
南部
うん、やってても!なんでなんだろう!?
阿古
水の量がちょっと合わないとか?
南部
なんかいつもね、もう神に祈るような気持ちで。
荻上
苦手意識がやっぱりあるんですね。
阿古
だからかもしれないですね。
南部
それから解き放たれたらいけますかね?
阿古
あと、調味料の加減が得意な人と苦手な人がいるみたいで。調味料の加減が自分が苦手だと思えば味見できる料理を作った方があとで悲しくなくっていいと思います。
南部
そうなんですよ!途中でいろいろ手を加えられる煮物とかの方が絶対的な安心感があるんです。
荻上
足し引きがいけるやつ?
南部
そうそうそう!「こっから先、手を出せない」っていってできるまで何もできないっていうのがたぶん怖いのかな?
荻上
でもやっぱりみんな料理に関してはそれぞれの苦手意識はあると思うんです。
阿古
ありますね。
荻上
料理研究家の方って「それでもいいんだよ」っていうタイプで安心なものをやってくれるのか?「発想を変えてごらん」っていうことで苦手なもののコツとかを上手に教えてくれるとか、言葉が巧み。
だからレシピをいかに知ってるか?じゃなくて、それも大事なんだけど。けっこう言葉でのコミュニケーションがカギになりそうですよね。
阿古
そうですね、レシピ本の場合は限界がありますけどテレビとかラジオとかに出られてる方、料理教室で会っている方なんかだったらその人の説明を聞いて「この人だったら言うことを聞いて私はできる」っていう人を見つけたら早いんじゃないかと。
荻上
だから平野レミさんとかに励まされた人、とても多いと思いますよ。
南部
「いいのよ、いいのよ!」って(笑)
荻上
あの方、ツイートの140字にレシピを収めたりするじゃないですか?簡単に今日できるやつみたいな。
南部
「フライパンだけでいいの!」とかね。
荻上
レミパンね(笑)
南部
私、土井善晴さんですね。なんか土井さんの話術を頭の中に入れて思い出しながらだと絶対に失敗しないなみたいな自身があるから、土井さんが推しているものだともう絶対大丈夫!と思ってレパートリーに入れちゃう。
荻上
テレビで料理している人って本当・・川越シェフとかあるいは料理の鉄人とかすごいメンズ方向ってマネできないでショーとしてみるものじゃないですか?やっぱりマネできる身近な参考のものを提示するっていうのはやっぱり別の土俵ですよね。
南部
そうそう、家庭料理ってまた1個別のジャンルだなっていうふうに思っちゃいますよね。
阿古
はい、違うと思います。
荻上
この料理研究家たちの歴史をまとめた本を書くにあたっては、やっぱり阿古さんも読みまくってたんですか?
阿古
えーと、いや違うんですよ。私はレシピ本をほとんど見ないんです。
南部
ええええーーーっ!どうやって作るんですかー?
阿古
いや、最初に覚えるときは私は場合は村上昭子さんのレシピなんですけれども。それをたまたま和食の本を買ってきて、それを見てそれこそ大さじ1杯を測るところから「魚の煮付けはこうやるのね」みたいな。「ひじきの煮物はこれだけ醤油を入れて、みりんを入れるのね」みたいなことを覚えたんですけれども。
ある程度やっちゃうと、あとはアレンジで食材を見て「じゃあ今日はこれにしよう」みたいな。炒め物と煮物と和え物プラスちょっと蒸し物とかっていうのがあったら、あと焼くのか。それ以上にややこしいことをしないので食材だけでバリエーションができる。
荻上
それ以上にややこしいことってどんなやつですか?
阿古
蒸して煮るとか複雑な工程なものがあるじゃないですか?私が今まで作ったことがないものが「ロールキャベツ」とか「白和え」とかあるんですけど。工程が複雑になってくるので。
荻上
そうですね、なんかボウルでシャカシャカしたりとか巻いたりとか。
阿古
キャベツをまず茹でたり蒸して、それを巻いて留めてまた煮る、スープ作って。その何工程もあるようなことはしないのでそうするとまあ外食経験があればあと友達と情報交換とかしてれば、そんなたくさんのバリエーションはいらないので。
荻上
世の中アレンジしようとして大失敗する人たちいっぱいいますよ、でも。「なぜそれを足した!」みたいな。
阿古
そうですよね、魔の誘惑ですよね(笑)
荻上
そうそうそう、「隠し味じゃないよね、これ?」みたいな(笑)
阿古
でもたぶん経験っていうのがある程度あって、私も20代のころはスパイスガンガン使ってたんですよ。いろんなことをやってみたい?やってみたいけど1人暮らしだったので「人に見せないし」みたいな。
南部
責任自分で取りますもんね。
阿古
うん、それで誰も「うわーっ!」って言ってくれないわけですよ(笑)
南部
それも分かります!それも分かる、失敗して迷惑掛けない代わりに誰も喜んでくれないっていう(笑)
阿古
そうそうそう、ゴボウのささがきのニンジンソースみたいなのをやってみたんだけどニンジンをすりおろす面倒を考えたら「これやっても私が食べるだけでしょ?」とか思ったら「なんかもういいや・・」とかって。だんだん変わったことはやらなくなってくる。
だけど今回この本を書いてちょっとまたバリエーションが増えました(笑)
荻上
あ、そうですか?でもやっぱりこう料理で精神統一とか気分転換するとかだと凝った作業とかも黙々とこなすっていう方が逆に良いっていう方もいらっしゃるわけですよね?
阿古
単純作業楽しいですよ。あの忙しいとかに。ひたすらそれこそ千切りをするとか、ひたすらさやを剥くとか、なんかそういう行為で心が安まるときってありますね。
荻上
そうですよね?私はそういうタイプではないんですが、全く。でもよしながふみさんの漫画の「きのう何食べた?」とかだと、主人公の弁護士の方とかが仕事のモヤモヤとか忘れるために調理に没頭するっていうシーンが毎回出て来たりしますけど。凝ってれば凝っているほど没頭出来そうですね?
阿古
そうですよね。私の場合はそういうのはお菓子でやってた時期があります。なんかケーキ作ってみたりとかして、作った感があるというか・・。
荻上
確かになんかスーパーな感じというか特別・スペシャルな感じというか、そんな感じがお菓子の場合はありそうですね。
阿古
はい、あと餃子もなんか作った感があるので、急にものを作りたくなって突然餃子を作ってしまう見たいなときはありますね。
荻上
私、年に1回くらい餃子パーティをやるんですよ。知り合いとかを呼んで。で、包むところからやって、僕はあまり包まないんですけど(笑)いろんな人に包んでももらうという。なんかでもけっこう楽しみますよね?形とかなんかこだわったりとか。
阿古
そうそうそう、手作業の面倒なことって実はワイワイやるのが楽しいんですよね。味噌造りとか最近教室が流行っていて、私も行くんですけどれども。味噌造り教室でみんなでひたすら豆潰していたりとか混ぜ合わせたりとかっていうのおしゃべりしながらやると楽しいんですよね。
荻上
そうですよね?その共同作業が楽しみ。たぶん今の料理のトレンドとかがだいぶ変わってるんでしょうね。料理研究家がこのレシピっていうだけじゃなくて、場をどうやって提供するか?とか課題が増えているような気がしますね。
阿古
色んな方向性が増えてきたので、それは面白いことだと思いますね。選択肢があるっていうのは。
荻上
その歩みについて、変化について今日はうかがっていきたいと思ってます。
(中略)
南部
今夜は新刊「小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代」を出版されたばかりの阿古さんに『料理研究家』論をうかがいます。
荻上
「本邦初の料理研究家論」ってオビに書かれていますね。やっぱり料理の文化を研究する本ってすごく面白く読んじゃうんですけど、例えば戦中とか戦前のレシピを再現してみましたとか。アニメのアレを再現してみましたとかね。
それは面白いんですけれど、料理研究家をこうやって追ってしかもマッピングとかもして、これはワクワクしますね。なぜ、料理研究家を追おうと思ったんですか?
阿古
最初はこの本の担当編集の人から話があったんですよ、このタイトルになっている小林カツ代さんと栗原はるみさんについての本を書きませんか?って話があって
その前に「昭和の洋食 平成のカフェ飯」というので簡単に料理研究家さんたちの歴史も触れていたので一度ちょっと詳しく調べた方がいいだろうということで。
先ほどもお話ししたように自分自身はレシピをそんなにいろいろ調べたりいろんな本を集めたりっていうことをしてこなかったので、まあ仕事なら調べると。
で、家庭料理の変遷を知るという意味でおいてそれぞれの食卓調査とかいろいろありますけど、全体像ってなかなかつかめないんですよね。そうすると何が流行ってきて何が大切にされてきたのか?っていうのは実はレシピ本と料理研究家の出してきたコツの本とかエッセイとかそういうところに現れてくるんですね。
荻上
この時期になるとどのレシピ本にもこのメニュー入ってるなとか?
阿古
そうそう、でその時代時代の流行もあるし、「ここを解説するのか」みたいなポイントとか、「ここを大事にしてるんだ」っていうことが時代によってちょっとずつ違ってきてたりするので・・
例えば単純に言っちゃうと、だんだん料理の腕が皆さん落ちてきているらしいっていう初心者のレベルが下がってきているらしいっていうことは、そういうレシピの本とか雑誌とかを見ると分かってくるんですよ。
荻上
へえ、それは想定読者層が変わったっていうことともまた違うんですか?
阿古
料理経験のないっていう「ない」のレベルがどんどん下がってきているんだと思います。
荻上
ああ、なるほど。それは実際に家で学んだりとか学校で学んだりっていうものがあまりない人もいれば、かつてだったら買わないような人がそれでもレシピ本に何か助けを求めたいっていう人でアクセスするようになったとか、いろいろありそうですね。
阿古
両方あると思います。経験数としては女の子なら「これだけしつけをしましょう」とか「家庭科でこれだけやりましょう」みたいなところに対して、熱心な先生とかお母さんとかお父さんが減ったかもしれないし。
その教える側の特に親御さんたちのレベルがもしかしたら下がったるかもしれないし、っていうこともあると同時に「料理はできた方がいい」っていうことをそれこそメディア料理研究家の方々がずーっと言ってこられたので、それに対して「できるようになりたい」って思う人は増えていると。だから両方あると思います。
荻上
それから「無理に身につけなくていいよ」「いざというときはレシピに頼ろう」みたいな形でだから本のハードルは下がってるみたいなこともあるかもしれないですね。
阿古
そうですね、若干迷走している感はあると思うんですよね。
荻上
迷走ですか?
阿古
あのーだから、その読者の要求・視聴者の要求というものがだんだんうるさくなってくる。それはどの業界でもそうだと思うんですけど、それに対して応えようとして親切に丁寧に説明しすぎてかえって分からないとか、
こんな簡単なことを「簡単に」って言って基本が抜けちゃってたり。例えば「落とし蓋」について本の中でも書いたんですけど、「落とし蓋って面倒臭いよね、それを買うのは」っていうところからたぶん始まったんだと思うんですけど。
紙で落とし蓋を簡単に作ってそれで押さえましょうっていうことが今テレビとか普通に放映されてますけど、落とし蓋を買った方がずーっと何十年使えるので紙をいちいち作って液だれするものを捨てるよりいいし、たぶん圧力とかも違うんじゃないのかな?と思いますね。
ちょっとそこは裏付けがないのでなんとも言えませんけれども。
南部
ああ・・代用ね。
荻上
代用したもの勝ちみたいな思想が行きすぎると、代用過剰みたいな(笑)
南部
なんか時短のつもりが時短になってない逆にっていうこととか、あと昔のレシピ本ってある程度いちょう切りとか短冊切りっていうことはそこからの説明でなく、それはもう当たり前でガーッと書いてあって調味料が・・だけど、今もう「切り方はこうですよ」っていうとこから行かないとダメみたいな。
私、一回肉じゃがを初めて作ったときに・・
荻上
いつ?
南部
えーっとね、いやでも高校生ぐらいのときだけど。肉じゃがを作ったときに説明通りにやるんだけどじゃがいも入れて普通の味付けしていいんだろうと思って、おたまで思いっきり混ぜたんですよ。
そしたらドロッドロになっちゃって、でもそのホッホッホッて鍋をじゃがいもを踊らせるみたいなことの説明はその本に書いてなかったから、「ああ、混ぜるんだろう」って・・
荻上
カレーのルーみたいに溶かす?
南部
そう、っていう前提として分かっていることを書かないっていう料理本から今もう「みんな分かってるでしょ?」っていうことまでちゃんと書くっていうふうになっている気がするんですけれども?それはどうですか?
阿古
そういうふうにキチンと説明されているものもあれば、本質が見えなくなってんじゃないかな?ぐらいに説明が過剰になっているものもあるような気がするんですけどね。それは自分がレベルが上がってきて厳しい見方をするのかもしれないですけど。
飯島奈美さんの「LIFE」とかは非常に分かりやすく書かれていて、それはそのプラスアルファの「ここは分かってるでしょ?」のところを説明しているという意味では初心者向けだと思います。
荻上
その情報の分かってる分かってないの腑分けというのが上手だっていう感じですね。この料理研究家っていつごろ出だしてきた存在なんですか?
阿古
明治のころからあります。女性が料理をするっていうことに対して、必要であるその料理が上手になるということが家庭円満になる。そして男性が外で気持ちよく働ける、「食の大切さ」という意味において「赤堀割烹教場」今、「赤堀料理学園」というんですけれども。
それが明治15年(1882年)に出来ているんですね。それが女性向けの初めての料理教室で、創設者が割烹着を作ったり、女子教育に割烹・料理が必要であるということを訴えかけてその後に出来る女学校に料理を教える授業を設けることに貢献した人がいます。
荻上
それまでであれば家庭で教えたりとかっていうことだったわけですか?
阿古
「料理」っていうほど複雑なものっていうのは家庭とか主婦とかが誕生してきた明治半ばぐらいからなんですよ。それまではごく単純なものが中心でバリエーションもそんなにたくさん必要じゃなかったんですよ。
近代化と高学歴化によって料理の世界はどんどんバリエーションが増えていくっていうことになるんです。
荻上
それは料理が出来る女性っていうのが一つ、今で言うと婚活じゃないけれども望まれる女性像っていうものになったんですか?
阿古
そうですね、料理が出来るということ。いろんなレパートリーを持ってるということはそれだけ変化のある毎日が体験できるわけで現代人なんかは毎日違うものを食べたいというのは普通のことになってると思うんですけど、
その楽しさというものを外食がそんな頻繁でなかった時代に出来るってそれはけっこう幸せだと思うんですよね。だから、それはできた方がいいし、美味しいものを食べた方が家族も楽しいし、しかも栄養のバランスとかが良ければそれだけ健康も維持できるわけだし、それはより有利なことではありましたよね。
荻上
なるほど、まあ考え方とか環境とか、あとそのご著書の冒頭で書いていたのが「近代化すると海外からいろんな食材がやってきたりして、料理もやってくる」というと、今度はそれに対して「じゃあどう作ればいいんだ」っていうニーズが生まれてきたようですね。
阿古
だから洋食の紹介というのは最初のころからされていて、明治の初期のころにも「西洋料理通」っていう本が出ていたりとか。まずこの肉をどう食べるんだ?とかバターとか牛乳とかそういうものをどのように使うのか?だとか
そういうところから始まっているので、和食は伝承されてきているものもあるからまあ出来るだろうみたいなところからスタートしているはずで。
まず西洋料理を解説する、女学校なんかでも西洋料理を親切に教えて地方ではそういう料理が紹介されると生活に合っていないという批判が来るくらい洋食を積極的に教えていたという歴史があります。
荻上
洋食ブームだったりもしたんですか?そのときは。
阿古
洋食が本当に庶民に広がってくるっていうのは何段階かあるんですけど、昭和初期くらいに中間層っていういわゆるサラリーマンと専業主婦の家庭が増えてその人たちの奥さんたちが女学校を出ているので、
主婦雑誌とかを読めるように「主婦の友」とか「料理の友」といった料理雑誌があったのでそういうものを教科書にする。で、料理本も主婦向けのものっていうか家庭向きのものが20世紀に入ると出版されてくるので、
そういうものを解読する能力がついている女性たちが積極的に新しいものを「何だろう、これ?」っていう感じでおそらくは作ってたんじゃないのかな?という感じです。
荻上
なるほど今日はですね、阿古さんが本の中で大正時期にこれだけ洋食とかが流行っていた。そんな時代に歌われていた流行歌があるということで本の中で引用している歌がありますよね。「コロッケの唄」っていう歌、まずこれ聞いていただきましょうかね?鈴木やすしの「コロッケの唄」
荻上
というわけでこれ1918年の流行した歌「コロッケの唄」なんですよ。もちろんこれは再現ですけれどもね。
「♪ワイフもらって嬉しかったが いつも出てくるおかずはコロッケ 今日もコロッケ 明日もコロッケ これじゃ年がら年中コロッケ」これはどういう歌なんですか?解釈するとするならば。
阿古
これは料理のレパートリーが少ないという意味だと思います。まあ新しい料理だから奥さんは作ってみたい。旦那さんがそれを喜ぶかどうかではなく、自分が食べたいし作りたいっていうことが先行しているという新婚の人には・・
皆さん新婚時代がおありの方は思い出したら分かると思うんですけれども、そういう時期があるっていうことはよくあることですね。今の女性でもそうだと思います。
荻上
これはもうほぼ100年前ですよ。
南部
すごいね、でもコロッケってハードルけっこう高いじゃないですか!油で揚げてっていう。
荻上
そうでしょうね、当時の火力だってそれなりに要るでしょ?でも流行ったんですね。
南部
でも高いからこそ毎日出したくなるかも?
阿古
手の込んだことをしたいんですよね、最初は。「自分は料理上手だ」と言いたいし・・で、なんか簡単な料理って実は経験がないとできなかったりするんですよね。
南部
うんうん、意外とシンプルなものっていうのは。
阿古
そうそうだからそれは味のクオリティとかもそうだし、そういうふうにできないというか、いろんなことをやってしまう経験がないと。
南部
あっ、味混ぜちゃってなんだか分からなくなるみたいな(笑)
荻上
というまあこういったいろんな料理のニーズが入ってきたという話があって。話はこの本でも戦後へ飛んでいくんですけれども。どんどんどんどん日常の料理をどうメディアが提供するか?っていう課題が出て来て、
おそらくラジオ番組からテレビ番組そして雑誌とかそこでまあ料理っていうものをいかに世の中の人々に届けるか?っていうことになる。そこで出てくるのがまた料理研究家になるわけですね。どんな方が出てくるきたんですか?
阿古
戦後になって料理研究家っていうのがテレビが出てくることによって非常にタレント化していくわけですけれども。その初期のころに出て来た方としては江上トミさん、漫画でも使われるくらいにポピュラーだった方です。おふくろさんキャラクターで売れた方。
それからセレブのイメージで外交官の奥さんを戦前していたということで本当に最近までご存命だった飯田深雪さん、それから今もいろんな方が「お母さんが作ってた」とかっていうことでよく覚えていらっしゃる方で土井勝さん、土井善晴さんのお父様ですね。
あと辰巳芳子さんのお母様でいらっしゃる辰巳浜子さん。まあ本当に何人もの方々が外国の料理をアレンジしたり、日本の伝統的な家庭料理を伝えたりということに尽力してこられたっていう方々がいました。
南部
リスナーの方からも「子どものころ『ラブおばさん』こと城戸崎愛さんのポチャポチャした感じがたまらなく好きでした。子ども用に料理本が出ていてよく読んだ記憶があります」というメールをいただきました。
それからですね「私の料理の先生は母です、その母が心酔していたのが帝国ホテルの村上信夫先生と『スープの神様』辰巳芳子先生です」というふうにいただきました。
そしてこの方「こんばんは料理本が好きでけっこう読んでいます。政治は絶対いやなんですが料理界には良い世襲があると思うんです。和食だったら土井勝・土井善晴や小林カツ代・ケンタロウ。他にもたくさんコウケンテツさんとかも受け継がれる丁寧な仕事と味がなかなか良いんですよね」というふうにいただきましたよ。
荻上
でも親子でまた別スタイルだったりして、そのあたりの変化も面白いですよね。その中で小林カツ代さんと栗原はるみさんがタイトルについていますけれども。この2人をピックアップしたのはなぜですか?
阿古
この人たちが家庭料理の世界を大きく変えた立役者だったと思うんですね。この前の先ほど挙げた方々、先人の方々。今の『ラブおばさん』の城戸崎愛さんとかのあたりはある程度翻訳料理なんです。
西洋から入ってきたもの、中国とかから入ってきたものをどのように日本の家庭生活に合ったものにするのか?というアレンジをする。土井さんとか辰巳さんたちは忘れられがちな日本の料理をどのようにその同時代の人に伝えるか?っていうことをしていたっていう意味で翻訳家なんです。
南部
はあ、納得。納得。
荻上
それをこの2人が変えたんですか?
阿古
この人たちの世代になると小林カツ代さんも昭和12年のお生まれでもう覚えていらっしゃる方が本当にたくさんいると思うんですけれども、昭和から平成にかけて大活躍して。栗原はるみさんは団塊の世代で今も本当に第一線でやっていらっしゃる方々で。
荻上
可愛らしい本も作ってね。
阿古
はい、で昭和に生まれたこの人たちというのはもう第2世代・第3世代ぐらいに入ってきているので洋食・中華そういうものが日常化してきているところなので、新しいことができた。
新しいことを求められたという意味で翻訳ではなく「私のやり方はこうです」っていうことを全面に押し出すことができた。それは今までの料理研究家から飛躍した世代だと思います。
荻上
日常の料理なんだけど「こうアレンジする」とか「工夫すれば楽になるよ」とかそういったところがステージになっていくんですか?
阿古
はい、小林カツ代さんはなんと言っても時短料理で売れた方でプロセスを大胆に省略してだけど美味しいっていうことを伝えた方ですね。
それは忙しい人たちにとって本当に助っ人だったと思うし、しかも美味しくできるっていうのは例えば料理がまだ経験が少なくて下手だなあと思ってる人が「カツ代さんのレシピだったらできちゃった!」っていうことをたくさんの人に伝えたと思うんです。
荻上
手抜きなんて批判もあったでしょうけどね、それは僕は違うと思いますけどね(笑)だってお互い楽な方が笑顔が増えるじゃないですか!
阿古
そうなんですよ、「手抜き」っていうことを最初のパイオニアは必ずなんかそういう批判をされるわけですよ。その後のいろんな簡単料理とかのものによっては小林カツ代さんのようにはいかないことがときどきあるわけですよ。
そうすると、彼女の簡単だけど美味しくて基本を実は外していないというのはすごいことだったと思います。
荻上
この本の中ではいろんな料理研究家の方々をマッピングしてどう違うのか?っていうものがいろいろ出てくる。
実は小林カツ代さんと栗原はるみさんだけじゃなくてですね、いろいろ出てきてしかも男子の料理研究家が出てきたらどうなるのか?などもいろいろ書かれてるんですね。読みながらね、ものすごいお腹空いちゃいました。
南部
料理もしたくなるしね。
(了)
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