樹木希林が語る「大竹さん、折角来たので質問していいですか?」

2013/03/24

ゴールデンラジオ 樹木希林 大竹まこと

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今回は、2013年2月19日放送「大竹まことゴールデンラジオ」
「大竹メインディッシュ」樹木希林さんの回
起こしたいと思います。





冒頭に「約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯」の紹介がありました。

大竹まこと(以下、大竹)
こんにちは、ようこそいらっしゃいました。

樹木希林(以下、樹木)
どうも、「なはり」じゃなくて「なばり」です(笑)

大竹
やっぱりね、そうじゃないかと思ったんですけど。

樹木
いやいいなー、そうやって間違えてくれるとホッとする。

眞鍋かをり(以下、眞鍋)
いや、絶対やっちゃいけないことを(笑)・・すみません。

樹木
あの大竹さんは観て頂いたそうで。よくあの2時間ちょっと・・しんどい・・どうでした?

大竹
いやあのね、もちろん演技とドキュメンタリーと重なってるところもものすごいんですけども、やっぱり途中から弁護団に鈴木さんっていう方が参加なさるんですね?35歳で。

その方が・・これドキュメンタリーですから中でどんどんお年を召していくわけですよ。何回も何回も裁判になるぞ!っていうのが現場で棄却されちゃう。そのたんびに鈴木さんが・・もう、万感の思いでおっしゃてるわけですね。いやー、すごいなーと思って。

樹木
そしてねこの映画は実際にそのときに証言をした人ね。ちょうど今から五十何年前にそういうその実際裁判の判決を下した人あるいは証拠を調べた人たち、弁護士も含めてね、本物が出てるわけですよ。

本物にね、何でいくらねこんな驕った女優が「私はね・・」なんて女優が出てきてねペッチャンコになるのはわかってるわけですよ。本物に同じ画面の中でどう比較したって敵わないんですよ!

でもそれはね・・すごく押しが強くて坊ちゃんみたいな顔してるディレクターなんだけど
ドラマなんか撮ったこともないのに、あの仲代(達矢)さんがオーケーしちゃって仲代さんが「あなたとやりたい」と・・「まぁわかりました」と言ってやったんだけども

やってから「シナリオの書き方」というノウハウ本を読んだりね(笑)そういう人なんだけども、やっぱりねそれでずっと関わって今日まで来てねテレビが全国区放送してくれないので映画にするっていうのでやりましたけれども。


やってみて今ふっとね、私たちは出来は良くないんです。仲代さんも私も、まぁ他の人たちも、まぁいい人もいますけども。それほど出来は良くないけれども、でもこれに関わることによってまぁパンダみたいな、客寄せパンダの一環を担えば、この事件が世に出る何かになると。


だから自分の芝居がどうのこうのなんて言わないでまぁやるところまで宣伝してみましょう!というそんな思いに駆られる事件でした。

やっぱりちょうど私が18歳で役者になる昭和36年、同時期の事件ですよね。あの今日までの年数をあの人は刑務所でいたんだなと思ったときに、「あっこれはちょっと仇や疎かじゃないな」と。その人が今87歳くらいでまだ病院刑務所にいて・・

大竹
拘置所・・

樹木
あ、刑務所じゃなくて拘置所って言うんですかね?

大竹
死刑囚っていうのは拘置所なんですね。

樹木
誰にも会えなくているのを何とか最後には!とみんなそういう思いでいますけれども、多分司法はこのまま病死ということで終わりたいと思うんですね。それも分かる、司法の気持ちも分かる。証言を覆した村人たちのそのときの気持ちも分かる。

もういろんな人たちの気持ちが分かって非常にそういう意味では重みのあるしかし人間そのものを実にえぐりだす・・この関わった人たちをえぐりものであるなと思います。

だから結果はどうであれ、そこの年月はそれぞれにとって意味があると。

大竹
この映画に携わるにあたって仲代さんとお二人で「覚悟は出来ている」と、もしかしたらこれで仕事が無くなるかもしれないけれどももういいねっていうふうにお二人で言い合ったとか。

樹木
だいたい元々「もういいね」っていう年齢ですから(笑)80と70ですから、ですけどまぁそのくらいの覚悟は承知で出会ったという感じですね。

大竹
映画はひとつの告発になっておりますね。そしてですね、この映画のあらましは実際の事件「名張毒ぶどう酒殺人事件」っていう。


一番最初の事の発端は、村の若い人たちの寄り合いで男は酒、女はぶどう酒を飲む。で、ぶどう酒を飲んだ女の人たちが次々に倒れていくと。死んだ人もいるとその犯人がこの中にいる奥西っていう男だっていうふうにして・・当初は、事件4日後には自白するんですけど。

物語はそこから始まるんですけども。その自白したのはそのときだけで、あとは一転して彼は無罪を主張すると。そういう映画のドキュメンタリーを元にして事件を丹念に追って
しかもそれに関わっていた弁護士たちの思いも丹念に描かれています。

樹木希林さんは主人公の奥西のお母さん役奥西タツノさんをおやりになってる。でも実際に画面の中には本物の・・

樹木
タツノさんが出て来るんですよ!これはきついですよ!本物の奥西さんは若いときのが出てきて、それが山本太郎さんがやるのね。だからある意味では仲代さんは得をしてるんですよ。歳取ってるときだから誰も観てないから。

大竹
そうか!樹木希林さんの方はオーバーラップが近すぎるわけですよね?ご本人と。

樹木
そして拘置所の壁のところを行き来するあの姿をなんで私がもう一回やるのよ!と。だって報道局のところにチョコチョコとセット立ててやるんですからね。これはちょっときつい仕事でしたけど、まぁなんとかやりましたね。

眞鍋
報道局のところにチョコチョコってセットで撮ってたんですか?


樹木
要するにそんなドラマなんか作ったことのない人たちが立てて作るんですからもう貧乏なお母さんの台所をピカピカの包丁やピカピカの鍋が出てきてこたつ掛けなんていったら真っ赤なのが出てきて、「いやちょっとそれはもう・・」そこから・・大変でしたよー、泣けます。

そして最後に「ギャラはもう・・すみません」って「分かってますって!」(笑)・・分かってますよ・・。

大竹
ハハハハハ(笑)

樹木
もうとにかくね、ちょっと割に合わない仕事でしたけど結果的にはこれに関わらせて頂いたことで私は自分の人生もまた一つ・・こう見ることが出来る割に合う仕事になってきつつあるな、と思ってます。

大竹
そうですか。この監督の方は名古屋の東海テレビ放送で「司法シリーズ」ということをドキュメンタリーで何年も何年もやってらっしゃる方で・・

樹木
そしてそのね「毒ぶどう酒事件」は代々東海テレビが受け継いでるんですよ。この人だけじゃなくその前のディレクター、その前のって受け継いでるからね・・

だから当初の事件のあの後の映像からあるんですよ!それがね、もう本当にリアル。

大竹
映画を見た後で、まぁ内容は皆さんにお伝えするわけには行かないんだけど。一所懸命集めた証拠が・・

樹木
九十何%証拠が出来た!っていう、それで無罪を待ってる私たち全員がペロっと・・

大竹
覆されてしまうんですよね。向こうの検事側の証拠っていうのは自白だけ。それ以外の証拠を一つずつ覆していくんですが。例えばビンの歯形の王冠についてとか実際にその昔あった王冠を再現して!

樹木
これはね、是非観て頂きたいと思います!もう内容は見て頂くのが一番だというふうに。

大竹
これに関わったたくさんの方が・・奥西タツノさんも実在の人物ではありますが、その方もいろんな方がこの裁判の間に亡くなっていく。

樹木
そうなんです、奥西勝さんの息子さんも亡くなってるんです。辛い・・もう家族がどんな辛い思いをしたかってもうちょっとあれなんですけど。

ちょっと私、折角来たので質問していいですか?私ね、けっこういろんな事件に出会ってね、自分が引き起こしたり自分の家族が引き起こしたり、そういうのもあるんで全く無縁で事件なんて起きるわけ無いんですよね。

だからそれは全て自分で引き受けるようにしてるんですけど。

一度危ない目に遭ったことがあってそれはね、スマトラ沖の地震の時にちょうど12月の24日で私がタイのチェンマイで仕事が終わるっていうね。

それで25,6,7,8とこの4日間プーケットに行って子どもたちと合流してっていうスケジュールを組んでてそれは映画の仕事でタイのチェンマイで終わるって。

そうしたらば、私がガンになったことによってそれをキャンセルせざるを得なくて、10月の段階でキャンセルした。で、12月のそれは無しになって他の方がやったんです。

それで私は1月の準備をしてたんです、手術の。で、掃除を暮れにしてたんです。そしたら大津波の映像が映って、「あれ、これなんだろう?」と思ってそしたらタイのプーケットでものすごい映像で。

そして「タイのプーケットって、あっ!」ちょっとスケジュール表、昔のを出してきて観たら25から28まで、そのプーケットは26日なんですよ。それでちょうどアマンプリっていうホテルはね、この大津波の湾と湾の真ん中のちょっと高台にあって


そこから私はやっぱり当然従来は元取ろうと思って降りてって孫を遊ばせてるはずなんですよ。もしもそこに出くわして、

私は自分が死ぬのは何でも無いけどもしも自分が生き残ってどっちの1人もあるいは2人も助けられなかったときのその後の人生を考えたときに
自殺することも出来ず、かといって人は私を責めることも出来ず、というこの地獄をときどきゾーッとしながら想定するんですよ。

それで私はいろんな目に遭った人にちょっと聞いてみたいというふうに思って私、大竹さんにね、大竹さんが事故を起こしたっていうことを誰かにむかし聞いててね、

それをどういう気持ちでどこをどうしたら立ち直れたのか?っていうのをね一度めったにお目に掛かることが無いので、今日ちょっとそれを伺えたらなっていうふうに思って。

大竹
はい・・あの時ね、私もう本当にこの業界にはいられないと思ったんです。ただこの事故に関してね、あの・・どんなふうに出るか僕は分からなかったんですけど

結局、これの・・あれは・・裁判じゃないんですけど、それで言うと100とゼロという結果が出たんです。

樹木
ということは?

大竹
ただ私は信号に従って運転してただけだという結論を頂いたんです。でもねぇ・・これはそれはどうなるかは、それでもね・・いやーいくら100とゼロは随分後でですけどね。

そういうふうな事ですというふうに言われたんですけど。それはとっても辛い思いを致しましてね。

樹木
それは亡くなられたんですか?

大竹
はい、亡くなりました。

樹木
これはね、他人事じゃないんですよ。自分もすぐそばにある出来事ですからね。だから世の中の出来事を観る度に「あっ!」「あっ!」って自分を思い浮かべるんですけど。それでその後、切り替えて抜けるときは何がきっかけでした?

大竹
あのですね、そういうふうな結論を頂いたときでももうあの・・心の整理が着いてませんからね僕の場合。であの・・・名古屋のテレビ局が、中京テレビっていうんですけど。

ここのレギュラーやってたんです。そこから「悪くないんなら出ろ」って言われたんですよ。出ないって悪いってことになるわけでしょ?

樹木
そうですね。

大竹
って言われて、私は心の整理も着いてないんですけど
うーーーん・・・・・・・・・・・・・・・

樹木
きつかったでしょうね。

大竹
うーーーーーん・・・・・・・・・・・
まぁまぁこういう世界に携わる人間ですからね。

樹木
それはもう晒されて当たり前なんですけれど。

大竹
いやいや、当たり前でも無いんですけどね。ただ遣ること無いからうちの前、走ってたり
夜中走ってたりいろんなことしてたんですけど

いろんな方が大竹だって分かって声掛けて頂いたり周りに色んなことが・・支えて頂いたこともあってもちろんそれだけじゃなくて、私も生活もありますんで。

樹木
でもその時に支える人もいるけど、逆のあれも・・この世の中のそういうものを感じませんでした?逆風みたいな。

もしそういうのがあんまり無いとすれば、それはそれまで生きてきた大竹さんの人柄ですね。ああ、なるほどね。

大竹
うーーーーん・・。これは世間の逆風っていうのは正直、僕はあんまり無かったんです。
バッシングもあまり感じなかった。まぁバカで鈍感で感じなかったのかもしれませんけども。

樹木
いやいや。私なんかもろに来るんですよね。それを終いにそれが快感になってきましたね(笑)もう面白がるしかない。

表に出てる人間の、それはもう当たり前の事。責任っていうか背負うものだっていうふうに思った途端に何でも無くなるというか、もちろん元々図々しい人間ですから、根がね。

だからどういうことがあってもそれは平気なんですけども。生きていかなきゃしょうがないんですけども、でもスマトラ沖のあれはゾーッとした。

そのね、あれがときどきヒュッ!ヒュッ!と出て来る。それをどうやって・・「じゃああのとき自分はどうやって抜けるか」って想定するともうプツっと切れて想定出来ないんです。でも、大竹さんはそういう思いをなさったんですね。

大竹
まぁ僕の話もそうですけど、実際につい先日の話ですけども、お話しがあったのは今回の震災、3.11の震災で目の前で手をつないでいた亭主が流されると。

2階に住んでいたお父さんお母さんが助けられない。どういうわけか自分だけが生き残ってしまって。あとでこの方はお子さんに巡り会うんですけども。

そういう方はどうして、今子どもさんと全部流された酒屋さんをお継ぎになってやってらっしゃると伺ってますけども。

樹木
人間ってものはすごいものですね。立ち直らなきゃしょうがないんですもんね。

そしてその私、この映画の「名張毒ぶどう酒事件」に関わったね。ドキュメンタリーですから、本当にリアルに「嘘ついてるなぁ」っていうのが見えたりしますわね。

でもそういう人たちを自分がその場になったときに責められるか?と。

自分が裁判官になったときに縦社会の中で覆すことが出来るか?って言ったときに、さぁ自分は出来るか?とっても出来ないっていうのがもうあの私がつくづく感じた人間の弱さであり、

そこが人間たるものなんだなぁっていうのをつくづくここのところで感じてる日々なんですよ。

大竹
おっしゃってることは実際にドキュメンタリーですので、現場の方にもインタビューしてるわけですよね。それで当時のことは「あまり聞かないでくれ」って言う方もいらっしゃるしいろんな答えが返ってくるわけですけども、それをちょっと冷酷ですが画面では捉えている。

樹木
そうなの!これがね、この報道局の人たちのやっぱり快挙だなって思いますね。で、みんな作りながら他人事ではないというふうに思って、だから責めてないんですよね。


あの立場になったら自分もそうするだろうという、そこの良さがこの映画にはあります。

(了)

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