山田五郎が語る「ムンクの『叫び』は叫んでいない」

2012/03/10

デイキャッチ ムンク 山田五郎

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今回は、荒川強啓デイ・キャッチ!内
山田五郎さんのデイ・キャッチ!スコープを起こします。

配信期限が過ぎたため、音声はありません。

荒川強啓(以下、強啓)
このムンクの「叫び」、とても有名な絵なんですけどれども、
いつどのように描かれたなど実は知らない事が多くてですね、
五郎さん、一体どういう絵なんでしょうか?

山田五郎(以下、五郎)
まずね、この「叫び」有名で、
携帯の絵文字のモチーフにもなってるくらい有名な作品ですけども。
「これ美術館にあるんじゃないの?どこが売りに出したの?」みたいな
ってこと思いますよね?


64億円ってのが高いのか?安いのか?ってのもありますけども。
これまず新聞に記事にもあったんですけども。
このムンクの「叫び」っていうのは、手書きのカラーのものだけでも
4点知られてるんですね、存在が。

で、大元の作品というのが1893年に描かれた作品で、
これは油絵とパステルと使った作品でノルウェーのオスロ国立美術館に
所蔵されているんですよね。
これ、1994年に盗まれてすぐ見つかった作品なんですけども。

それ以外に、1910年頃に「テンペラ」っていう技法で描かれたやつがあるんですね。
これはノルウェーのオスロのムンク美術館というところにあるんですよ。
で、こっちも2004年に盗まれて、2006年に見つかったというものなんですけどね。
ムンク美術館にはもう1枚パステルで描かれた「叫び」があります。

それで残りの1枚が今回オークションにかかるもので、
こちらは1895年に描かれたパステル画なんですね。
これはムンクの友達で、しかもパトロン、ムンクの作品をよく買ってくれていた
トマス・オルセンっていう人がいるんですけども。
その人がずっと個人で所有してて、
この度その人の息子がオークションに出したという事なんですね。


強啓
ということは、「叫び」という作品は全部で4つあるって事?

五郎
色が付いたやつは。
その他に、白黒のリトグラフって版画のやつもありますし、色々あるんでね。





強啓
この叫んでるような「ほぅーー」ってこんな顔してる・・、
全部同じ顔なんですね?

五郎
「叫び」に関しては全部同じ顔なんですけど。
なぜそこまでムンクがこのテーマにこだわったか?ということなんですけども、
実はムンクはある体験が元になったって書いている・・
日記に書いてるんですけども、

「それはある日の夕方、友達と2人で歩いていたら、
突然空が真っ赤に染まって、すごく気分が悪くなって橋の柵にもたれてた。
その時に、果てしない叫び声が自然を貫いていくのを聞こえた」って言ってるの。

つまり、「叫び」っていうのはこの人(中央の人)が叫んでいるのではなくて、
どこからともなく聞こえてきて、この人はそれが聞こえるのが嫌だから耳塞いでいるんですよ。

杉浦舞
あ、そういうことだったんだ!!

五郎
別にほっぺたこうやってるわけじゃなくって!
真ん中のガイコツみたいな有名な人は、結果としてこの人は叫んだかもしれないけれども、
それはどっからともなく叫び声が聞こえてきて「キャー!」つって耳を塞いでいるんですよ。
ほっぺた押さえてるんじゃ無いんですよ!

更に言うなら、これがムンク自身なわけじゃなくて、
ムンク自身はあえて言えば、後ろに描かれている2人なわけですよ。
「友達と2人で歩いていた」っていう・・。

強啓
あ、本当だ。
これ橋の向こう側にいるのね。

五郎
橋の上に歩いている。
ムンクが後ろの2人だっていうのは、今回オークションに出た作品みるとよくわかって、
このオークションに出るパステル画だと、後ろの1人が橋の欄干にもたれてるんですよ。

強啓
そうそう、帽子被っている人が・・。

五郎
だから友達と2人で歩いてた時にね、
自分は叫びを聞いて気分が悪くなって橋の柵にもたれたっていう・・。

この前の年に、この作品にいく前に「絶望」っていう作品を描いてるんですけども、
これなんかも、この時は叫ぶ人いないんですよね。

強啓
でも橋の欄干にもたれかかってますよね。

五郎
で、この「叫び」体験が一体どこから来たか?っていう話なんですけども。
ムンクは5歳の時にお母さん結核で亡くして、
14歳の時にお姉さんがやっぱり結核で亡くなって、
26歳の時にお父さんが亡くなって、32歳の時に弟が死んで、
家族がもうどんどん死んでいく。 

本人も病弱だったんですよね。
だから常に死の不安に怯えてたんです。
それからまた若い頃に人妻との不倫騒動でゴタゴタあったりなんかしてね。
そんな事あったりなんかしてね、一種のなんて言うんでしょうかね?
不安神経症的な、神経症にかかるんですよね。

常に死の恐怖と、その事によって自分が狂ってしまうんじゃないか?っていう
恐怖に悩まされてたんですよね。
結局それがピークに達した時に
どこからともない叫びが聞こえてきたっていう事だと思うんですけどもね。

元の油絵のところを観ますと、ここの赤い所に鉛筆で
「狂った人間にしか描けない絵」って自分で描いてるんですよ。

だから絵に描くことによって、自分の死への恐怖、気が狂ってしまう恐怖を
乗り越えようとしたんだと思うんです。

そんなに死ぬことを恐れたムンクなんですけども、
意外に知られてないですけど、実は80歳まで長生きしまして。
しかも、20世紀に入ってからほとんど国際的に知られているような
活躍はしていなかったということなんですよね。



死ぬの怖がったのに長生きしちゃって、
その結果ね、最後にはドイツに退廃芸術の烙印押されて、
ナチスがノルウェー占領された時に作品全部没収されちゃって、
戦時中に亡くなっちゃうんですよ。
長生きしたおかげで悲惨な死を迎えることになっちゃったっていう
そういう皮肉がありますね。

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