2013/09/17

新潟医療福祉大学教授・奈良貴史が語る「ヒトだけが難産、その理由」

今回は、2013年7月13日放送「夢★夢Engine!」
奈良貴史さんの回を起こしたいと思います。


松尾貴史(以下、松尾)
早速今夜のゲストをご紹介します。
奈良貴史さんです、こんばんは。
よろしくお願いします。

奈良貴史教授(以下、奈良)
こんばんは。

(中略)

松尾
ご専門は人類進化学と・・これ、骨(こつ)学というんでしょうか?はじめて聞いたんですけど。
あの・・「ほねがく」なのか?「こつがく」なのかと思ったんですが(笑)
これはもちろん読んで字のごとくっていうことなんでしょうか?

奈良
はい、そうです。

松尾
要は人類進化学と骨学というからには、
骨の進化っていうものが研究テーマなんですか?

奈良
はい、骨から見た人類の起源と
それで我々人類がどのような姿になってきたのか?というのを
骨から研究している学問です。

松尾
今日のテーマの「難産」っていうことなんですが
その難産を始点にして人類の進化を科学していただくという
この難産にまた注目なさった理由は何だったんでしょうか?

奈良
これは私が専門で難産を勉強しているっていうわけではなくて
まぁネアンデルタールを勉強していて、
それで大学では人類進化の一般的な講義をすると。


そうするともちろん「なぜ人は立ち上がったのか?」とか
そういう話も概説としてすると。

人間は2足歩行になって、それからチンパンジーよりも3倍も脳を大きくして
で今、現代に至っているという概説をするわけですけども。

その中で1コマ、立ったんだけれども、それで人間は繁栄したけれども
負の遺産として様々な病気を抱えていると。
それが心臓病だったり腰痛だったり、肩こりだったり

それで難産もあるんだよという話をすると
私の専門であるネアンデルタールの話よりか特に難産が
食いついてくる学生が多かったと。

松尾
ああ、特に女子学生なんかも気になりますよね。



奈良
まぁ女子学生もそうなんですけど
男子学生も子どもの作り方は習わなくても知ってるのに
「どうして子どもが産まれてくるか?」っていうのは男も女も知らないんです。

私も大学生まであんまり、もちろん知らなかったと。
勉強してだんだん分かってきて、実際に子どもが産まれるときに
立ち会い出産とかそういうので分かってくると

「なぜこれを知らないんだ」
「いやでも日本の教育だと教えてないんじゃないか?」
というようなことで自分の授業で力を入れる1コマになったと。

松尾
なるほど、では具体的に伺ってまいります。
こちらから。

加藤シルビア(以下、加藤)
「動物は安産、ヒトだけが難産」

松尾
これは例えばサメなんかが出産するときに水中で撮影されたりとかはヌルっと出て
ワーッと水がその辺くもったようなものが流れて
ドロンっておしりをふったら、ボロンって出てきてとかね。

加藤
パンダもすごくキュッて出ますもんね。

松尾
まぁパンダちっちゃいしね、赤ちゃんね。
なんか馬とか鹿とかなんて、産まれて割とすぐに立っちゃったりなんかして

人間だけがとにかく大人が手を尽くしていろいろしなきゃいけないし、
我慢しなきゃいけないしっていうことがすごく多いような気がするんですけど
やっぱり人間は動物に比べて難産なんですか?

奈良
そうですね。平均で初産で15時間もならなきゃいけないというのは人間だけですし、
日本の女性の若い人の出産をしない、子どもを作らない理由に
「痛いから」というのも挙げられると、それぐらいまでに人間の出産は痛いと。

加藤
イメージありますよね。

松尾
でもなんか身近な動物でいうと、
なんかこう事も無げに生んでるようなのもいますよね?
例えばどんなものが挙げられますでしょうか?

奈良
例えばウサギなんかは食事しながら子ども産んでしまうと。


加藤
えーーーーっ!!

松尾
食みながら産む。

加藤
痛みってないんですか?

奈良
痛みがないんでしょうね、
だから全然躊躇なく物を食べながら子どもを産んでると。

松尾
はあー、さっきパンダの話も出ましたけど。
まぁ妊娠するのがなかなか難しそうな感じで報じられてますが
でも難産の様子はないんですか?

奈良
ないですね。

松尾
本人は「さあ産んだぞ!」っていう感じはあるんですか?

奈良
まぁあるから子どもを抱きかかえるんですけども
難産っていうたぶんイメージは無いんじゃないですかね?
その・・苦労して産んでいるというのは見てる限りは無いんじゃないですかね。

松尾
例えばそのケモノというか野獣というか、
割とがたいの大きなものは、今おっしゃったようなものの中では
「難産なんじゃないかな?」って想像するんですけど・・。

奈良
ゾウが難産だというふうに言われてる・・中でも。
まぁゾウは体が大きいですから、赤ん坊も割と大きく出てくるということと。


ゆったり産んでても襲われる心配が少ないということで
出来るだけ大きくして出そうというんですけども。

人間のように誰かが手伝わなければならないっていうまで難産ではないと。
だからウサギほどポロッと出してるイメージはゾウにはない。

松尾
サルはどうですか?

奈良
ニホンザルでよく動物園にあるサル山で出産する光景がとらえられてるんですけども
周りを全然気にしてない、周りのサルが。

松尾
イベントじゃないんですか?

奈良
イベントじゃない。それで母サルは自分で産んで取りだして
何事もなかったようにだっこし始めると。
で、周りは全然関心がない。

加藤
へその緒とか無いんですか?

奈良
へその緒はあります。
だから自分で切って食べちゃうんですけども、だから何事も無く。

加藤
何事も無く(笑)
通常の1コマですか。

奈良
・・1コマだったみたいです。

松尾
人間だと10時間だとかね、もちろん早い人もいますけど・・かかりますが
サルの場合はどうなんでしょう?何時間とか何分とかっていうのでいうと?

奈良
ウサギほどじゃないんですけど、
サルは1時間、2時間とか。


ただ人間の場合、陣痛始まったときからちゃんとカウントできますけど
サルの場合はどっから痛いのか?なかなか分からない。

松尾
意思表示もしませんもんね。

奈良
意思表示もしない。
で、うなってるとか人間みたいに「あーだこーだ」とも言わないんで
なかなか時間が計れないんですけども、
観察しているやつはそんなに大変じゃ無い。

松尾
続いてはこちらです。

加藤
「ヒトだけが難産、その理由」

松尾
あー、何でしょう?

加藤
何でしょう、女性としてはものすごく気になります。

松尾
敏感になっちゃったのかな?
「あ、イタイイタイタイ!」っていうような感じになっちゃったのかな?

加藤
どんどんどんどん痛みを徐々に感じていったってことなんでしょうかね?

松尾
これはじゃあ神経じゃ無いのかな?
構造的なことなんでしょうか?

奈良
まぁ構造的に四つ足の哺乳類と人間が違ってきたっていうのは
人間の定義にもなっている直立二足歩行、立って歩き始めたというようなのが
あるんですけども。それが大きな体の構造的な変化をもたらしたと。

例えば、我々何も知らなくても3ヵ月くらいの赤ん坊連れている女の人に
「首が座った?」って聞いたりしますよね?

首が座ったっていうのは重たい頭を首の上にのせられるように
首がカーブして頭が大きくなった人間の重力を分散する構造が出来上がって
「首が座った」と。

S字型になった上のカーブが「頸椎前腕」って専門用語で言うんですけども
それが出来上がってから首が座ると言ってそれが持ち上げられると。

今度は1歳くらいになってくると、よちよち歩ける。
そのとき何が起こるのか?というと、腰椎前腕という今度は腰の骨のところが
出っ張ってS字になると、そうするとS字型になってお尻の方にいくので

そこでも当然、産道にカーブが出来上がるということで
四つ足の哺乳類はそれが無いから産道は一直線。

だから犬が流線型の顔をしてたら新幹線がトンネルを通るように
一直線に出てこれる構造になっていると。

それが人間が立ったために腰のところの90度のカーブになったために
急カーブしながら出てこなきゃならないと。

松尾
じゃああの産院にある分娩台のかたちは
体勢としては産道がまっすぐになるように
少しでも近づけるようなかたちになってるんですか?

奈良
それはあの・・ちょっと前まではみんな仰向けに寝たままで
出産させられたことが多かったと思うんですけど・・

松尾
まぁ映画なんかではそういう場面が多かったと思いますけど

奈良
そういうのは産婦人科の医療人側の立場として
子どもを引きやすいようにそういうかたちにしたという
指摘が最近なされてるんですけども。

多くの民族例だと座産で、江戸時代なんかは紐に・・

松尾
ああ!「大奥」で見たことあります!


奈良
まぁそういうのが出来るだけ出やすい形でっていうふうになったりするんですけども。

加藤
座った状態のままで産むということでしょうか?

松尾
で、紐にぶら下がるということは
つまり体をまっすぐにするっていうことなんでしょう。

奈良
まっすぐにして出来るだけ重力に逆らわず赤ん坊を出すということですけども
結局やっぱり90度曲がったりしてますから、
あちこち動かしながらじゃなければならないんですけれども。

松尾
S字カーブにして・・つまりその脳とか腰より上の部分を
力がガン!ガン!ってかかったときにそれのクッションになるように
ある意味コイルみたいな状態にするために体が曲がって湾曲してきたってことなんですね。

さてCMの後もお話は続きます。

(中略)

松尾
後半もよろしくお願いします、こんなお話から。

加藤
「ヒトはなぜ立ち、脳が大きくなったのか?」

松尾
そうか!僕はずっと脳が大きくなってきちゃったから
立たざるを得なくなったって逆に思ってたんですけど
そういうことじゃないんでしょうかね?

奈良
立つのが最初です。

松尾
立つ方が最初で立てたから脳が発達出来たっていうことなんですかね?

奈良
まぁそういうことですね。

松尾
前半ではヒトの難産の原因のひとつが直立二足歩行と脳の大きさ
というふうに伺いましたが、何故立ったんですか?

奈良
これが今でも喧々諤々の議論が続いていますんですけれども
食料を運ぶために立ったんじゃないか?と。

加藤
運ぶというと両手を使わなきゃいけないっていうことですか?

奈良
両手を使って物を持って行くと。物を持って行く相手は誰か?というと、メスなんです。
まぁここでは女性となってるかもしれませんけども。
パートナーに食べ物を運ぶために立ったんではないか?と。

松尾
役割分担がはじまったということなんでしょうか?

奈良
そうですね。
これが1つの根拠として、ゴリラやチンパンジーを動物園で見ていただければ
分かるんですけども、オスの犬歯はものすごく大きいと。


で、今まで発見された猿人と呼ばれている直立二足歩行した
初期の我々の祖先は既に犬歯が小さいんです。

犬歯が大きいということは鹿とかそういうのでもそうですけども
角が大きいとパートナーを得やすいというようなことで、
「俺はオスだぞ」というような感じで誇っていたと。

ただし人間の初期の祖先にはもう既にそれがないと。
つまり犬歯が大きい・大きくないがパートナーを選ぶ理由ではなかったと。

松尾
生活力なんだ!

奈良
生活力!そこで何かというと食べ物を持って行くために運ぶと。
四つ足だとほとんど運べない。

松尾
前足空いてないと難しいってことですよね?
じゃあペリカンみたいなアゴがあってもよかったわけですね、本当は?


奈良
サルなんか頬袋なんか発達してますけども。
それでも数百グラムなんですよね。
それよりか効率的にというのは両手を解放。

松尾
何キロも持てますもんね。
いやそれは面白いですね、目からウロコというか・・
確かに隙の無い理論ですね。

加藤
だんだんその二足歩行が出来るようになってきて
頭も大きくなってくるとそれと同じ時期に難産になってくるわけですか?

奈良
それで立ってから数百万年は人間の頭が大きなならなかったんです。
少し類人猿よりか難産だったかもしれないけども、まだ産道を通るくらいの
大きさだったんで通れたと。

それからゴリラやチンパンジーがだいたいグレープフルーツぐらいの
脳の大きさだったんですけども、我々現代人には3倍になると。

松尾
小スイカぐらいになってますね。


奈良
そうです、そこになるために飛躍的に変化させれる要因は何だったのか?と
いうようなのが、今大きく考えられてるのは人類が肉食をし始めたじゃないか?と。

松尾
肉食をし始めるということは、つまり体の組織が伸びるようになるとか
・・そういうことじゃないか(笑)

奈良
というよりかは、我々だいたい3%くらいの脳が全身であるんですけども
その20%くらい脳にエネルギーが必要になる。

つまり脳が大きくなるということは脳ってものすごくエネルギーを食うわけで
効率よくいろんなものを食べなければ脳を大きくすることが出来ない。

それが可能なのっていうのはやっぱり今までのゴリラやチンパンジーのように
木の実とかフルーツだけではなくて栄養豊富なタンパク源を取る必要があったと。

そこで肉食なんですけども、肉食は当然ライオンとかそういう
ライバルがいっぱいいるわけですよね?


そこで人間が目を付けたのがライオンとかチーターとかが食べ残した
骨の中に入っている骨髄を効率よく取るというのを考え出したんじゃないか?と。

ライオンとかそういうのは狩りをしたときに
脳とか肝臓とか腐りやすい栄養価高いものをパクパク食べちゃうんですけども
その中に入っている骨髄はあまり食べないと。

骨の中の骨髄っていうのは硬い骨に覆われているから
あまりすぐは食べたりしないと、それで野原に置いておかれることがある。

それを人間が取って食べたと。
ただし人間も硬い骨はなかなか割ることは出来ない。
そこで人間が発明したのが最初の道具である石器。

石器でガンガンガンガン割って効率よく
「骨の缶詰」と言われている骨髄を食べたと。
そうしていくと今まで以上に効率よくエネルギーを得てる。

松尾
その骨はまた割ったものとかカケラが尖ってるから
他の道具に使えたとか。

奈良
骨角器とかそういうのに使えたというようなことで、
効率よくとれるような道具も一生懸命作ると

手先をどんどんどんどん使ってその相乗作用でますます
頭が大きくなったんじゃ無いかな?というふうに

松尾
道具を使うようになって、だんだんまた頭も使うようになって
だからその循環が生まれて、

髄液を取れる道具が出来る、これをどう使うかっていうようなことで
脳が発達していく・・うわ、すごいことですね!
でも代償として難産になると。

奈良
頭はどんどん大きくなっていくけども
女性は先ほど言いましたけど形が少し変化すると

じゃあ安産まで変化すればいいじゃないか!というふうに
学生にもよく質問を受けるんですけども、

当時女性が安産までに体を変化させちゃったら
今ならもし妊娠がわかった場合、女性を24時間産婦人科の病室に入れて
ケアする体勢もしかしたら取れるかもしれない。

ただし200万年前人間が頭が大きくなったころ
まだ野原で採集狩猟してるときに女性が歩けなくなったら困ってしまう。

人間は難産だけど子どもを産むまで
けっこう日本人の女性って働いてますよね?

松尾
前日まで普通に歩いてますよね。

奈良
だから採集狩猟民の女性も生まれる直前までは
野原歩いて根菜類とったりとかしてる。
そういう社会じゃないと維持できなかったと。

つまり女性が安産なように腰の骨盤を・・まぁどう変えるかは分からないですけども
ガバっと変えちゃったらもう我々のように歩けない。

そうなってしまうと人類の社会を維持できなかったということで
女性はギリギリまでしか変化出来なかったと。

松尾
なるほど、そうですよね。
だって子育ても出来なくなっちゃうわけですからね。
続いてはこちらです。

加藤
「難産回避のための進化」

松尾
そのお話ですが、進化の過程でね歩けなくなっちゃうとか
そういうことじゃなく、なんか別の方法は無かったんでしょうか?

奈良
難産回避のために女性はちょっと体のかたちを変えていると
赤ちゃんも赤ちゃんなりにものすごく人間のあかちゃんは努力してる。

加藤
あんなに小っちゃいのに。

奈良
まぁ皆さん1歳か2,3歳ぐらいの子どものおでこの上が
ペコペコしてるのを・・

松尾
柔らかいです。

奈良
あれは人間の骨っていうのは我々大人は15個、23個の骨で
しっかりくっついているんです。

人間の胎児の場合はその骨がくっつかず、まだ膜でくっついている状態で
お母さんの産道を通ってくるときに頭の形を変えながら出てくるんです。

加藤
すごいなー。

松尾
へー、ぬるーってこう・・頭もにゅーってこう
フレキシブルになっているんですか?

奈良
そうなんです、ですから産婦人科なんかは
産まれてきた赤ちゃんの頭の形を見てどういうふうに
産道を通ってきたか?とか回旋してきたかっていうのが分かるらしいです。

松尾
まだまだ伺いたいことはいっぱいなんですが、
この番組は学生の皆さんに研究すること自体の面白さを伝えたいという
趣旨なんですね。

是非メッセージを一言いただきたいんですが。

奈良
よく感じてることなんですけども
知ることの喜び、研究してる人間は皆楽しいから研究してると思うんですけども
その楽しさで何を知ったから嬉しいのか?というようなことを

やっぱり周りの人たちに伝えられるようになりたいなというふうに
思うんです。

松尾
ありがとうございます。
今夜のゲストは奈良貴史でした。


(了)

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