サンキュータツオが語る「学校では教えてくれない国語辞典の遊び方」

2013/05/02

サンキュータツオ 安住紳一郎 国語辞典 日曜天国

t f B! P L
今回は、2013年3月24日放送「安住紳一郎の日曜天国」
ゲストコーナーを起こしたいと思います。


安住紳一郎(以下、安住)
それでは今日のゲストです。
「国語辞典の遊び方」の著者
お笑い芸人・サンキュータツオさんです。
おはようございます。


サンキュータツオ(以下、タツオ)
おはようございます。
サンキュータツオです。

中澤有美子(以下、中澤)
よろしくお願いします。

タツオ
色で言うと紫色です、よろしくお願いします。

安住
今日は紫のカーディガン・・

タツオ
僕はいつも紫色の服を着てるんですよ。
だいたいこういう感じのイメージカラーで。

安住
あ、そうなんですか!

タツオ
まぁ今日お話しする国語辞典もね、
各社イメージカラーがありますから。
やはりね、これは覚えて頂くためにイメージカラーっていうのは
必要かな?というふうに思いますよね。

安住
はぁー、ネクタイもワイシャツも・・ああそうですか。

中澤
そしてニットも。
薄いラベンダーカラーで綺麗ですね。

タツオ
「色彩語」という言葉があるんですよね、色を表す言葉っていうので。
僕、本当不思議なのは「赤い」とか「白い」とかって
形容詞じゃないですか?

だけど「紫」とか「緑」って
「むらさきい」とか「みどりい」って言わないですよね?
これが何故なのか?っていう


「茶色い」「黄色い」まで言うのに
何で「むらさきい」が無いのか!っていうのがね
おそらく過渡期なんです、あと100年後には「むらさきい」が
あるかもしれないという・・



安住
あ、なるほど!
紫のものが増えてくれば。

タツオ
そうですね、みんなが「みどりい」とか「むらさきい」って
使ってくれれば多分それが正しい言葉になってくんじゃないかと。

安住
使いたくなってくれば?

タツオ
はい、使ってこそ正しい言葉になっていくという
今日はそういうお話しをしたいなと。

安住
「荒川強啓 デイ・キャッチ!」などにも出演中で
TBSラジオのお聞きの方は御存知かもしれませんが
サンキュータツオさん。

1976年生まれ東京都のご出身。
早稲田大学在学中にお笑いコンビ「米粒写経」としての
活動をスタート

その後、大学院に進学し日本語や日本文学を研究。
通算14年在籍の後、博士課程を修了し、
日本初の「学者芸人」と呼ばれるようになります。

日本語の専門知識を活かした独自の芸風を確立し
現在ではお笑い芸人としての活動の他、
一橋大学で非常勤講師を勤めるなど文字通り
「学者」そして「芸人」としてご活躍中でいらっしゃいます。

タツオ
ありがとうございます。
説明が長い人間ですみませんね、本当になんか(笑)

安住
一橋大学ではどういうことを教えてるんですか?

タツオ
えーと、「文章表現」という授業をやってるんですけども
今はあの・・中級と上級の外国人留学生に
日本語の書き方を、文法とか文章表現とかを教えたりしてます。


安住
本当に大まじめな日本語の先生なんですね。

タツオ
そうですね、ただまぁ課題を与えるんですよ。
書いてもらうテーマはやっぱ身近なテーマがいいなと思って
最終的にレポートとか書けるようになってもらうんですけど。

例えば「嘘をつきなさい」とかですね、
「嘘をつく」っていうのは人を騙せるようなリアリティのあることを
書かないといけないので具体的に物事を書かなければいけない
タスクが発生しますよね?

例えばあとは、「親の子どもであることをDNA以外で証明して下さい」
どういう文章を書きますか?

安住
ええ!それを日本語を習っている途中の外国人学生に。

タツオ
もちろん!
文章を書くっていうのはどの国の人にも共通のロジックがあって
それをどうやって日本語で表現するか?っていうところなんでね。
そういう授業をやったりとかしてます。

安住
面白そうな授業ですね。
それから「漫才文体論」や「おもしろ論文研究」というような
得意分野もあるわけですけれども、
これはそれぞれどういうものなんですか?


タツオ
僕は専門が「文体論」という領域なんですけど、
例えば夏目漱石の文体とか芥川龍之介の文体って
まぁ名前くらい聞いたことは有ると思うんですけど。
○○らしさっていうことですよね。

これがお笑いでいうと、芸風ってことになるんですよ。
例えば、浅草キッドらしさとかダウンタウンらしさとか
そういうのも文体なので、あのお笑い芸人の人たちの文体って
どういうものか?っていうのをもう全部台本を文字起こししてですね。
その人らしさを抽出していく作業をやるわけですよ。

で、最終的に自分で完全にこの人がやりそうなネタっていうのを
作る、そして実演するというのをやったりとかしてます。

安住
へぇー!清水ミチコさんがよくユーミンっぽい曲を・・


タツオ
そうですね、あれ本当に文体論ですね。
あと絵だと「画風」とかって言われてますけど
例えばコンピュータにゴッホっぽい絵を描かせるとかあるじゃないですか?
あれも文体論の一つだと思うんですよね。
大づかみでその人の特徴をつかむという。

安住
で、ポイントポイントを何カ所か揃えてみると
その人っぽくなるという。

タツオ
そして再現をしてみるということですよね。

安住
例えば、水道橋博士と玉袋筋太郎さんの浅草キッドだと
どういう特徴があるんですか?

タツオ
えーとですね、あのお2人に関しては
文章を書くときは連体修飾節が長いという特徴があって
一つの名詞にかかる言葉がものすごく長い!

その分、集中を要するんだけど
理解をしたときにしっかりと入って来るような
文章表現になっていたりとか。
やはり非常に文字量の多い、ネタもそういう感じなんでね。

安住
そうですか!連体修飾節が長いんですか!
一つの名詞にかかるその説明が長いってことですよね?
はぁ、そうか。


タツオ
そういう特徴があったりしますね。
ワンセンテンスが長いとか。

文体論をやってる人だとその人が発する言葉が計何文字ぐらいを
何秒で言うのか?っていうことをデータを取ったりとかするのが
基本なので割と理系に近い学問なんですよ。

中澤
へぇー、たくさんサンプルを集めて。

タツオ
僕そういうのを自分で研究してて
「世の中でこんなに無駄な時間を使ってるのは僕だけなんじゃないかな?」って
不安になるわけですよね。

図書館行って自分の研究以外の論文とかもちょっと目を通してみたら
「あ、自分よりも無駄な時間を遣ってる人がいっぱいいるな」と思って(笑)
ちょっと変な論文を集めるのが趣味になったんですね。

安住
それで「おもしろ論文研究」につながったんですか?

タツオ
はい。
それを「デイ・キャッチ!」で発表してるみたいな感じですね。

安住
世の中いろんな研究している人を多いんですね。

タツオ
いや、いっぱいいますよ!こんなのまでって。
だって「湯たんぽがどれくらいのバリエーションあるか?」とか
研究してる人いるんですよ。
もうどうでもいいような、生きていく上でとか。

「カブト虫を裏っ返しにしてどうやって起き上がるのか?」
っていうのだけをずっと観察してる人がいたりとか。

「チンパンジー同士でアクビがうつるのか?」を
ずっと観察してる人がいるとか本当どうでもいいなっていう
素敵な時間を使ってる人が。

中澤
贅沢ですねー、うん。

タツオ
そうですね。

安住
そういう論文を探してくるのが楽しいんですね。

タツオ
そうです、もうそういうのを見つけた瞬間
図書館でガッツポーズですよ!
「私よりも無駄な時間を遣ってる人がいる!素敵!」っていう。

安住
そんなサンキュータツオさんのほぼライフワークと
言ってもいいもう1つの分野がありまして
それが「国語辞典マニア」

タツオ
はい、マニアですね。
もうコレクターでございますね。
私、日本語学が専門なので、まぁ僕の指導教授が国語辞典の編者だったんですよね。
それで大学院の最初の1年をずっと国語辞典について研究したんですよね。

そしたら「ああ、こんなに違うんだ」っていうのを気づいてから
国語辞典を集めるようになって、今だいたい家に200冊ほど。

安住
200冊!

タツオ
またこれ家族に理解を得られないパターンですよね?
完全に「趣味人」パターンですよね。
奥さんとかいたら大変だろうな?っていう・・
だいたい紹介される変な人ってそういう感じなんでね。
家族には理解されないと思います。

安住
日本で普通に売られている国語辞典ってのは何種類くらいになるんですか?

タツオ
正確にいうと、33種類くらいなんですけど
小型の国語辞典だとだいたい20種類くらいですかね?
出版社の数だけ国語辞典があると思って下さい。

だから国語辞典でいうと累計で1億部を超すベストセラー
どの家庭にも必ず1冊はあるでしょ?そんな本無いですよ!
どの家庭にもある本なんて!

そう考えたらこの大ベストセラーをもうちょっと
みんな考えてもいいんじゃないか?っていうことをね
お話ししたいなと思って。

安住
それでは今日はサンキュータツオさんに
「学校では教えてくれない国語辞典の遊び方」
まずは一気に紹介します。

その1「読み比べるほど楽しい『語釈』」

その2「掲載語に見る辞典の個性」

その3「序文は『合コンの自己紹介』だ!」

以上の3つです。

さて、国語辞典でどういうふうに遊んでいくのか?
まずは「読み比べるほど楽しい『語釈』」
「語釈」っていうのはどういうものですか?そもそも。

タツオ
「言葉の意味」ですね。
いわゆる国語辞典引いたときに載ってる解説文のことです。

安住
「見出し」に相対するのが「語釈」ですね。

タツオ
国語辞典は「語釈」以外にもいろんな情報が埋め込まれているんですけども
まぁまぁどの国語辞典にも必ず「語釈」はありますよね。

安住
あ、そうか!そうですよね。
「見出し語」があって・・

タツオ
「見出し語」があって、「読み方」があって
場合によっては「アクセント」も表記してあって
そして「語釈」があり、あと「品詞」も表記されてるものもありますし。
いろんな情報が。

安住
そうですよね、「使い方」とか「反対語」とか。

中澤
たまに「英語表現」もあったり。

タツオ
ありますよね、「類語」もあったりとか。

安住
なんとなく「語釈」しか載ってないようなイメージでしたね。
で、読み比べると楽しいんですか?

タツオ
そうですね、みなさんもしかしたら「新解さんの謎」っていう
赤瀬川原平さんの本を知ってるかもしれないですけど、
「新明解国語辞典」っていうちょっと独特な語釈の国語辞典っていうのが
あると思うんですけども。


まぁ国語辞典それぞれ独特なんだよというのをね
ちょっとご紹介したいなと。

例えば「恋愛」こんな身近なことないじゃないですか!
でも実体がない、目に見えない、「恋愛」ってどうやって説明しますか?
っていうことですよね。

一番オーソドックスな「岩波国語辞典」
「男女間の恋い慕う愛情」まぁまぁそうだよなと、スマートで。


安住
おお、いいと思いますよ。

タツオ
これが「新明解国語辞典」だとどうなるか?
ちょっと長いですけど聞いて下さい。


「特定の異性に対して他の全てを犠牲にしても
悔いないと思い込むような愛情を抱き、
常に相手のことを思っては『2人だけでいたい』
『2人だけの世界を分かち合いたい』と願い
それが『叶えられた!』と言っては喜び
ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に
身を置くこと」

中澤
ウハハッ!!
えー本当にそんなふうに辞書に書いてあるんですか?

タツオ
絶対経験者でしょ!!これ!っていうね。

安住
「新明解」の辞典では、「恋愛」を引くと
その説明が書いてあるんですか!

タツオ
書いてあります!
「明鏡国語辞典」になると、
「互いに異性(まれに同性と)・・」と、
最近の感じが有りますし。


国語辞典ごとにその語釈が違うっていうのもあるんですけど
僕がおすすめしたいのはね、「版」ごとにも違うっていう。

安住
あ!「第1版」「改訂版」と。

タツオ
今だから「新明解国語辞典」で紹介した長い語釈の
「第7版」が最新なんですけど。
これ「恋愛」が「第4版」のときはどうだったか?
ちょっと読みますね。

「特定の異性に特別の愛情を抱いて
『2人だけで一緒にいたい』『出来るなら合体したい』という
気持ちを持ちながら、それが常には叶えられないで
ひどく心を苦しめる状態」

・・「合体」ですよ!
「釣りバカ日誌」でしか聞いたこと無かった!
まぁこういうね、語釈も徐々に進化を遂げている。


「あ、『合体』良く無えな」ってことになって
「第7版」では無くなったんだ!
そういう行間を味わうのもマニアの楽しみですよ。

安住
「新明解国語辞典」っていうのは、
そういうのを売りにしてるんですか?

タツオ
そうです、はい。
これはこの編者の山田忠雄先生っていう方が
実はすごく魂のある方で、「国語辞典って著作権あるんじゃないか?」って
一番最初におっしゃった方で、
「だったら僕の国語辞典はコピペしたら1発でわかる語釈にするから、
パクってみやがれ!」っていうことでゼロから考えた語釈っていうのが
売りな国語辞典ですね。

安住
なるほど!じゃあ他のものを参考にせず
自分に唯一のものを。

タツオ
基本的に辞書を引くときって分からない言葉引くときも
もちろんそうなんですが、そのニュアンスを知りたいときありますよね?

例えば「新明解」だと「実社会」という言葉。
まぁ「実際の社会」なんですが、

「美化様式化されたものとは違って複雑で
虚偽と欺瞞に満ち、毎日が試練の連続であると言える厳しい社会」

「虚偽と欺瞞に満ち・・毎日が試練の連続・・」
「もう社会出たくない!」とか思っちゃうような。

安住
ちょっとマイナス思考ですね。

タツオ
ですけど、小説とか文章に「実社会」っていう言葉が
使われているシチュエーションってことを考えると、
「それが実社会なんだよ」とかね、ちょっと否定的なニュアンスで
使われる場合の方が多いと。

つまり、どういう文脈でこの言葉が使われているのか?
ということを非常に考えた国語辞典が「新明解国語辞典」

安住
ここに来て「新明解」という言葉がハマってきますよね。

タツオ
例えば「公僕」、公務員を示す「公僕」
これもね「新明解」だと、

「国民に奉仕する者としての公務員の諸、ただし実情は理想とは程遠い」とか
ちょっと批判的な。

中澤
かなり主観も入っているような・・

安住
主観入ってますね。

タツオ
ですけど「公僕」っていう言葉が使われる用例を集めると
やっぱりマイナスのニュアンスが多いと。
「お前は『公僕』か!」とか、そういう場合にこの意味の「公僕」って
単なる公務員以上の意味があるなっていうことをすくい取っているのが
「新明解」

一方で、「岩波」はやっぱそういうのはいらない!と。
シンプルに行くというのを打ち出している国語辞典ですね。

それ以外にもいろんな国語辞典があるので、
あなたに合った1冊を是非選んで頂きたいなと思います。

安住
そうですよね、よく国語辞典を最初に買うときに
自分の一つ言葉を決めてそれを調べてみて
自分が最もしっくり来る解説がしてある方を、
辞典を買ったら良いですよ!っていう説明を受けますけども。

タツオ
だから「恋愛」とかね、それこそ有名な話だと
「右」をどうやって説明しているか?とか。

安住
「右」を!へぇーー。
「右」説明されてるんですね、辞典は。

タツオ
「右」は説明してますよ、バッチリ!
あのー「岩波」だとですね、
「東を向いたとき南の方」「またこの辞典を開いて読むとき偶数ページの有る側」

安住
って「岩波」は書いてるんですか?

タツオ
「お前次第だろ!」っていう、
「右側偶数ページはお前次第だろ」みたいな(笑)

ですがこれが「新明解」になるとですね、
「アナログ時計の文字盤に向かったときに、1時から5時までの表示のある側」


安住
1時から5時ですか!6時じゃなくて?

タツオ
12と6は、真ん中だから入れてないっていうのが
この「語釈」のポイントなんですね。
で、「『明』という漢字の『月』が書かれている側と一致」

やっぱりどの辞書も動かない何かで、
「右」を説明しようとしてるわけですね。
個人差が出たりとかするのじゃなくて、動かない何か。
「文字」とか「時計」だとか、「方角」とか
そういうのでね、どう説明しているか?ってポイントですね。

安住
面白いですね。
どの辞典買っていいのか?ちょっと分からなくなりそうになりますけど。

さぁそして2つめですけども、今度は。
「掲載語にみる辞典の個性」

タツオ
つまりどの国語辞典も同じ言葉が載っているとは限らないんですね、実は。
例えば「明鏡国語辞典」という国語辞典の場合、
普通の話し言葉やスラングな言葉、俗な言葉もいっぱい載っているんで、
他の辞典では絶対に載せていない「巨乳」とか「貧乳」といった
言葉も載せてるんですね。

ただよく使われている言葉を国語辞典に載せるという
編集方針だったら、やっぱりみんなが使ってる言葉は
入れていかなければいけないだろうという。

ですけど、「うちの辞書はそういうスラングみたいなものは載せないから!」
というスタンスを取って、
みんなが使ってても載せないっていう辞書もあるんです。

安住
そうでしょうね。
むしろそっちの方がなんか自然な感じがしますけどね。
一部の人たちが使っているような言葉は国語辞典には
載せなくていいんじゃないか?っていうような・・

タツオ
これでも国語辞典にはそれぞれやっぱり編集方針っていうのがあって
「いや、積極的に現代語も入れていこう!」っていう国語辞典もあるんです。

ここにある「三省堂国語辞典」通称・「三国」(さんこく)
最近の版に載ったのはですね、例えば「パワハラ」「ピン芸人」
「ギャグに引く」「元彼」「スピリチュアル」「ワーキングプア」
「メタボリック症候群」「猛暑日」などなど。


やっぱり最近使われている言葉を積極的に入れていこうという。
この「三省堂国語辞典」っていうのは、
一番最初に作った見坊先生っていう方が生涯で145万枚の用例カードを
作ったと言われている人で、生きていて喫茶店行っても
居酒屋行っても隣の人の言葉を聞いて「あ!こうやって使われ方してる!」つって
全部メモして用例カード作って、生涯で145万枚ですよ。

安住
145万語っていうのは、どれくらいの量なんですか?

タツオ
えーと、普通の国語辞典に載っているのが
だいたい8万語ぐらいなので、まぁゆうにその10倍以上ということですね。

なので、使われている言葉を積極的に載せていこうという
国語辞典がこの「三国」とか「明鏡」ですね。

安住
なんとなくそういうのは「現代用語の基礎知識」とかで
こういうのが載って「プププププ・・」っていうのがちょっとね
楽しみだったりしましたけど。

タツオ
そうなんです、だから国語辞典って現代語辞典とか古語辞典とか
あと漢和辞典とどこまでお付き合いをするか?っていうね。

全部この1冊でほぼ事足りるっていう国語辞典にするか、
いやこの辞書はあくまで中心的な意味だけにしようとか、
その編集方針によってだいぶ入ってくる言葉も違うので、
是非そこはチェックしてもらいたいなと。

安住
さぁそしてサンキュータツオさんに聞く
「学校では教えてくれない国語辞典の遊び方」最後になりましたが、
「序文は『合コンの自己紹介』だ!」

タツオ
どの辞書を買って良いか分からないというお話しがありましたけど
「序文」っていうのがどの国語辞典にも必ずあるんです。

安住
「序文」は読んだこと無いですねー。

タツオ
これね本当、本屋で是非読んで下さい。

安住
読む人いないんじゃないですか?

タツオ
いやこんなに・・だって普通初めて会った人から
「僕こういう人です」ってちゃんと自己紹介して欲しいじゃないですか!

安住
いや、調べたい言葉から調べて方が良いと思います(笑)

タツオ
国語辞典もそれぞれ自己紹介してくれてるんです。
「僕こういうタイプなんです」っていう。
それを知らないでいきなりお付き合い始めちゃってるんでね。
是非ちょっと「序文」読んでいただきたい!
例えば、国内で一番保守的だと言われているこの「岩波国語辞典」

安住
もう装丁が保守的ですよね、格調高い。

タツオ
紫のベロア素材な感じがね、高級感があって。
僕これ「ルマンド感」って読んでるんですけどね。
ブルボンの「ルマンド」っぽい感じの
見せかけの高級感みたいな感じの(笑)


「この辞書は、視野に収めるのは過去100年の
一時的流行ではない言葉の群れである。
それ故ごく最近の新語・俗語にはかなり保守的な態度となる。」

安住
もうきちっと、かなり怖いくらいはっきり言ってるんですね。
「岩波のうちの辞典はちゃらちゃらした言葉は一切載せてませんよ」
「保守的な姿勢を取りますよ!」って。

タツオ
一方でさっき新語に積極的だと言った「三省堂国語辞典」
これの「序文」もまた有名なんですけど。

「辞書は鏡である。これは著者の変わらぬ信条であります。
辞書は言葉を映す鏡であります。同時に辞書は言葉を正す鑑でもあります」
ミラーの「鏡」と規範になる「鑑」の両面のどちらに重きを置くか
どう取り合わせるか?それは辞書の正確によって様々でありましょう。
ただ、時代の言葉と連動する性格を持つ小型の国語辞典としては、
言葉の変化した部分についてはミラーとしての「鏡」として素早く
映すべきだと考えます」と。

つまり小型の国語辞典だから新語には積極的になるのは
道理なんだ!ということを説明してくれてますね。

安住
「鏡」であるものだから当然世の中をきちんと映すんだよ!うちは!と。

タツオ
ミラーとしての「鏡」。
そして独特の語釈があります「新明解国語辞典」

安住
出ました!「新明解」
もうちょっと「新明解」のファンになっちゃってますよ(笑)

タツオ
初版、山田忠雄先生の「序文」ですね。

「思えば辞書界の低迷は編者の前近代的な体質と方法論の無自覚に
あるのではないか?先行書数冊を机上に拡げ適宜に取捨選択して
一章なすは・・」

いわゆる他の国語辞典の語釈をコピペして作った国語辞典は・・。

「いわゆるパッチワークの最たるもの。
所詮『芋辞書』の域を出ない。」


中澤
うわーーー!

タツオ
「芋辞書」って言っちゃってるんですけども。
なんなら初版「芋辞書」っていう項目わざわざ立ててる。

安住
その「芋辞書」には何て書いてあるんですか?

タツオ
初版の「芋辞書」はですね・・

安住
○○出版社の△△辞典だとは書いてないんですか?(笑)

タツオ
書いてない!
いろんな国語辞典に書いてある語釈をパッチワークして
大学院生に語釈を書かせたのでしょうみたいな。
すごい批判精神!

だからものすごい「新明解」っていうカウンターの
国語辞典だったんですよね。すごく野党精神あふれる。
ですけど、これ今日本で一番売れている国語辞典です。

安住
あ、「新明解」が一番売れてる!

タツオ
シェアの27%を今占めてる。すごい国語辞典なんです。

安住
いわゆる今の言葉でいうと、「毒舌国語辞書」

タツオ
「毒舌」ですよ!もう野党精神満載だったのが
与党になって慌てて今丸くなりました。
慌ててる感じで、「合体」とか無くしちゃってる感じが
たまらん国語辞典。

安住
「新明解」の「序文」は本当ぶるってますね。

タツオ
伝説の「序文」ですからね。
これは先ほど申しました通り、著作権。
辞書に著作権はあるんだっていうところから始まって
コピペしちゃいかん!と、自分で作んなきゃいけないっていうことで
一番最初に述べた国語辞典なんですね。

安住
なるほどね、最近の辞書界の不振は研究者の怠慢だと。
いきなりそれ書いてるんですもんね。

タツオ
多くの敵に回した画期的な国語辞典なんですけど。
「新明解」が出来てからそれぞれの国語辞典に個性が出始めてきた
という部分もあるんです。

安住
映画の「舟を編む」という映画で辞書を作る人の物語が最近また・・

タツオ
ありましたね、三浦しをん先生のね。
だから「舟を編む」なんかもマニアからしてみると
要らない情報がいっぱい入って来るんですよね。


「あ、この先生って中型国語辞典で現代語入れるって
すっげー無茶なこと言ってるな!」とか
「でも『三省堂』っぽいなこの人!」とか
「絶対『岩波』じゃないわー」みたいな。

「なんか『右』を説明するときに数字の10のゼロのある方っていう
説明をしているんですよ。
これって『新明解』の『明』って言う時の『月』の方と同じじゃん!
『三省堂』系だよね、やっぱり!!この先生!」みたいな。
激熱ですよね!マニアとしても喜べた、「やったー!」って言えた。


(了)

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