言語学者・山田敏弘が語る「相手の気分を悪くする日本語の余計な一言のメカニズム」

2014/01/13

言語学 松尾貴史 夢★夢engine! 余計な一言

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今回は2013年10月5日放送「夢★夢 Engine!」
言語学者・山田敏弘さんの回
を起こしたいと思います。


松尾貴史(以下、松尾)
早速今回のゲストをご紹介します。
言語学者の山田敏弘さんです、こんばんは。

山田敏弘(以下、山田)
どうも、よろしくお願いいたします。

松尾
まずは山田先生のプロフィールをご紹介します。

加藤シルビア(以下、加藤)
1965年生まれ岐阜県ご出身の山田敏弘さんは
名古屋大学文学部で言語学を専攻、その後名古屋大学大学院や
大阪大学大学院などを経て現在は岐阜大学シニア教授
日本語文法と岐阜方言研究がご専門です。

松尾
たくさんのご著書がありますが、
今年5月に「その一言が余計です。」という
この「余計です。」に丸も付いてまして言い切ってる感じなんですけど

この新書を出版されました。
これあの余計な一言と言っても僕もしょっちゅうカチンと来たり
小さくイラッと来るようなことが多いのですが。

日常、飲食店に入ってもちょっとしたものを買っても
家族であったり、こうやって面と向かって話してるアナウンサーの方であったり・・

加藤
えーーーっ!!ドキッ!

松尾
余計な一言に山田さんが注目なさったのはどういうきっかけがあったんでしょうか?



山田
まぁ正直に申せば、これは編集部からの依頼というのが正直なところでして(笑)

松尾
なるほど、こういうテーマが面白いぞ!と。

山田
ええ、まあただあのこの題名を聞いてですね。
大体の方は正しい日本語を教える本かな?というふうに
考えられると思うんですが如何でしたか?

松尾
どちらかというと、正しいかどうか?よりも
文法とか言語学というよりは、ちょっと心理学に近いような・・

山田
そうかもしれないですね。
でもこういう正しい日本語というのも知っていただきながら

その一方でそれを使っている人の身にもなって考えてみるのも
いいんじゃないの?っていうふうなことで
私自身は捉えて書き始めました。

松尾
ではどんなものがあるのか?具体的に伺って参ります。
相手の気分を悪くする日本語の余計な一言のメカニズム
まずはこんな余計な一言

加藤
「コーヒーでいいです」
「この料理、見た目はいいね」

松尾
これはカチンと来ますね、作った側・供した側からすればね。
「コーヒーでいいです」ってのは何か選択肢があったときに
「お飲み物どうなさいますか?」って「あ、コーヒーでいいです」

この「コーヒー『で』」って止めた場合は
その後に何が来るかでちょっと許そうかな?と思うんですけどね。

「コーヒーで盛り上がろうと思います」とか(笑)
「コーヒーでやせようと思います」だったら『で』でもいいですけどね。
「コーヒーで結構です」って言われるとちょっとカチンと来ますね。

山田
まぁ手段としての『で』というのはそれで盛り上がるということであれば
いいと思うんですけれども、やはり「格助詞」というふうに言うんですが
こういうような助詞。

格助詞の中でもいくつか序列があるんですね。
この格助詞っていうのは『が』『を』『に』『へ』『で』『と』『から』『より』『まで』
9つあるんですけれども、まぁ連用的な格助詞に限ってですけれども

その中で一番大切なものは『が』なんですね。
「コーヒーがいいです」というと
これは必ず欲しいというようなことを表すんですけれども

「コーヒーを飲みたい」とかですね、いろんな言い方出来るんですが
「コーヒーで」というと、この『で』はちょっと添え物的な役割を担っているもので
それでイラッとされるんじゃないかな?っていうふうに思うんです。

松尾
「今度の番組、加藤シルビアさんでいいですね」

加藤
うわーーっ、イラッと来るとともにショックが襲いますね。
その程度か!っていう感じですよね。

山田
ですから、やはり「コーヒーがいいです」という表現も知っておくと良いとは思うんですが
じゃあ「加藤シルビアさんがいいです」って言われたら逆にどうですか?

加藤
うわーっ、すっごい嬉しいです!

山田
あっ、嬉しい!そうですか!
でも「コーヒーがいいです」っていうふうに言われたら
なんか「我が強い人だな」っていう感じしませんか?

松尾
僕ね大体『が』って言わないんですよね。『で』も言わないんですけど。
「コーヒーを・・」と、自分の思いを・・まぁこれ我も強いんですが

「コーヒーをお願いします」と言う言い方をすると
確認もされにくいというのもあって手間が省けるというのもあって
「コーヒーをお願いします」って言いますね。

山田
ああ、そうですね。
優しさがそこに表れているというような感じなんでしょうか?

松尾
いや、まぁお互いの幸せかな?と思うんですけどね。

山田
ただこの『で』を使うということを文法的に申しますと
「脇にずらす・ぼかす」という作用なんですね。

日本語というのは古来から面と向かって言っているにも関わらず
遠くを指して「あなた」というような言い方をしたり

目の前にいらっしゃても「陛下」とか「殿下」とかですね
こう何かその建物の下というふうに

松尾
場所の名前を表して・・「閣下」とかね「陛下」とか。

山田
そういった「ぼかす」というようなことをしてきた。
そうすると「コーヒーで」というのは
1つの「ぼかし」の文化であってあまり直截的に・・

まぁ強く「コーヒーがいいです」っていうふうに言うのを
ぼかすという作用もあるんですね。

松尾
「横にずらす」っていうのはなんとなくケンカしているときに
「で?」ってこう聞き返すときの『で』ってちょっとその話は置いといて
「で、本筋は何が言いたいの?」っていうようなときに

「で?」って言いますけど、
あのときの『で』とは意味が違うんですか?

山田
ああ、あれは接続助詞ですよね。

松尾
でも「で?」って言うと脇にずらすっていう感じがね、響きがしますね。

山田
「それで?」っていうときには接続詞になりますけど
ちょっと違うんですけれども、この『で』というのは

場所で「図書館で勉強する」と言ったら
何を勉強するか?っていうことが大切なんですが、どこの場所でっていうのは
あえて聞かないものなんですね。

松尾
「銀座でやった」「豪勢だね」「高い店じゃないんだよ」っていう(笑)

山田
あえてその場所を言いたいとき言うときもあるかもしれませんけれども
それでもどうしても必要のは『が』であり『を』なんですけれども

そういったものからは少し外れてサブな役割と言いますか
そういった働きをする格助詞なんですね。

加藤
いつも思うんですけど、「・・でいいです」って使うときって
絶対コーヒーじゃないですか?
だから「ジュースでいいです」っていうとすごい厚かましい人な感じがしません?

「水でいいです」か「コーヒーでいいです」しか
あまり聞かないじゃないですか?

松尾
「モルトウイスキーのオンザロックでいいです」

加藤
なんかすごく腹立ちませんか?そういう人(笑)

山田
そうですね、そこにはやはり「容易に用意できるもの」っていうものが
そこの前に来るっていうのはおっしゃるとおりだと思いますね。

加藤
そう考えるとコーヒーが可哀想だなっていう気持ちになりませんか?

山田
いやー、コーヒーがそれだけ国民的な飲み物になっているということで考えれば・・はい
国民に親しまれるというのはいいことですよ。
加藤さんも頑張ってください。

加藤
分かりました(笑)

松尾
国民に親しまれる加藤シルビア『で』いいやね。
「この料理、見た目はいいね」っていうのはどうでしょう?

山田
そうですね、『は』というのにも2つの『は』があるというのはご存じですか?

松尾
何でしょう?
結びつけるのと、別のものと区別するときとがあるんですかね?

山田
あ、さすが松尾さんはこういう言葉に詳しいという話も(笑)
そうですね、一つは「主題」という働きで
「これについて言おう」というようなことで

「松尾さんは・・」っていうふうに話を始めれば、
「あっ、こういう言葉にはお詳しい方なんだ」というふうに
その後に解説がつくんですけれども。

「松尾さんはシルビアさんは」と続けるとこれは
「シルビアさんはどうなんだろう?でも他にもいい人がいるらしいぞ」というような
感じに聞こえてしまう。これを対比の『は』と言うんですね。

松尾
なるほど、面白い。
では「見た目はいいね」って言ったときには
別の要素があるという古都ですよね?

山田
それを想起させてしまう、思い出させてしまうという点で
「見た目以外はどうなの?」「いいって言っているのは見た目だけなの?」
っていうふうに進んでいるので

松尾
ということは、「いい」という意味がつくときには
『も』って言った方がいいっていうことなんでしょうか?

山田
そうですね、「見た目がいいね」っていうふうに言うと
まず見た目を褒めてその次に「あっ、味もいいね」っていうふうに
どんどん褒めていけばいいんではないかと思いますが。

松尾
続いては、こんな余計は一言

加藤
「まあ頑張って」

松尾
「まあ」がつくと余計に腹が立つね。僕あの「頑張って」という言葉自体が大嫌いで
僕、スポーツでこの局面で思い切り力を入れなければ負けちゃうよというときに
応援するときにはまず使います。

それから生きるか死ぬかというときには「頑張って」って使います。
それ以外に「頑張って」っていう言葉を使わないようにしてるんですけど
それに「まあ」っていう言葉がつくと余計になんかカチンと来ますね。

山田
そうかもしれませんね。
これは東北大学の名島さんという方からうかがったんですけど
口癖のように言ってらっしゃる方がいらっしゃいますね。

松尾
なるほど、よくやっていることを「頑張っているね」って褒め言葉として
使われるときはそれほどネガティブなイメージがないんですけど、
「まあ頑張って」って言うと

本当あんたが頑張ったってね、出来るところはそこそこしれているんだが
でも自分なりにやってみるのがいいんじゃないか?ってなんか
突き放された感じもしますよね。

山田
そうですね、「まあ」の次に続く言葉によってもかなり印象が変わってくるんですね。
例えば「まあ」というのはどういう作用を持っているのか?
これをまず考えてみるんですけれども。

そうするとですね、
大体使っているのが「不十分であるけれども」というような認識が
共有されているときなんですね。

ですから、「まあ食べてみてください」っていうふうに言えば
これは「食べてみた結果、その味の方は分からない」「あなたにとってどうであるか分からない」
その認識が不十分であるというふうなことを言っているんですが

それを「まぁ頑張って下さい」って使うと
「頑張った結果も分からないけれども、まあその努力だけはしてみてくださいね」
っていうふうなことになるので余計嫌味っぽくなってしまうということですね。

松尾
まぁもちろんこの口調からしてすごく上から見下ろした、見下した言い方になってる
というのも一つね、カチンとくる要素なんでしょうね。

山田
まあ異論な要素が絡み合ってですね、カチンと来るということがあると思います。

松尾
じゃあこの「まあ」の代わりに何が入ればいいんでしょうね?

山田
やはりこの場面では「是非」という言葉を是非使っていただきたいなと思います。

松尾
ああ「是非頑張って」
そうすると前向きな感じがしますね。

山田
もちろん「頑張って」が嫌いな方にはしょうがないですけれどもね(笑)

(CM)

松尾
後半もよろしくお願いします。
こんなお話から

加藤
「はいはい」「へえー」

松尾
なんかだんだんシルビアの性格が悪くなってきたかもしれませんね。

加藤
ハハハ、そうですか?

松尾
これは相槌、返事の問題ですね。
これなんで嫌な感じがしたんでしょうね?

山田
「はい」というのは「イエス」だと思ってらっしゃる方も多いんですけれども
「はい」と「イエス」は違いますね。

松尾
違いますね、「はい」の場合はなんか馬にドードードードーって言ってる感じ
「はいはいはいはい、分かった分かった」
「はいはいはいはい、ドードードードー、はいはいはい」っていうね

そういう繰り返して使われると
「皆まで言うな、私はもう分かっている。それ以上言う必要はないのだよ」
っていう信号を出してる感じがすごくして黙らされてるような感じがすごく嫌なんですね。

山田
「はい」というのは「聞いていますよ」というシグナルなんですね。
あるときに私「これ召し上がりますか?」「あ、はい。いいえ」
っていうふうに言われたことがあってですね。

「はい」っていうのは「一旦受け止めましたよ」というシグナルであって
その後で本当の答えが返ってきたんですね。

松尾
返事というのはそのイエス・ノーの返事と、
それと受け答えの返事みたいなもの、相槌のようなものが
一緒になっちゃったんでしょうかね?

山田
相槌がまあ基本的な用法なのかな?っていう
まあそういう使い方もあると思うんですね。

そうすると「聞いていますよ」っていうことを
2回繰り返されたどんな感じがします?

松尾
嫌な感じですね。

山田
そうですね、
「聞いてますよ、聞いてますよ、分かってますよ。そんなこと言わないで下さいよ」
っていうふうに聞こえてしまうんですね。

松尾
だから「あなたの言ってることはもう言い方がトゥーマッチですよ」
って言われているような感じがしてしまいますね。

山田
1回でいいということです。

松尾
もう1つの「へえー」ですけれども。

山田
これもイントネーションでだいぶ変わってきますね。
ですから奥さんがですね「今日、大学の友達と会ったの」って言われて
旦那さん、どう答えるか?

「へえー」もうこれ関心ないですね。
どうですか、嫌ですよね?

加藤
嫌ですね。

松尾
「へえー!」

加藤
あっ、嬉しい!

山田
まあイントネーションやら声の質やらいろいろな要素によって変わってくると思いますけれども
やはり抑揚を付けるということはそれだけ大変なことをしているので
抑揚に付け方によって関心を持っていると言うことは伝わるんですね。

加藤
ただでもそれを言う時点でいうと、奥さんを想像するんですけれど
旦那さんは「興味がないからその話続けないで」っていう
意思表示の「へえー」としか思えないんですよ。

松尾
へえー。

加藤
ほら、分かります?

山田
もうなんか・・ああこの番組もう終わりですか?

加藤
終わりですかね、興味がないということなんでしょうかね?

松尾
次の話、いっていい?(笑)
続いての余計な一言

加藤
「その言葉、間違ってるよ」が余計な一言

松尾
ああもうこれはね、こういう話の種として趣向であれば
まあ話すのはいいんですけど。

誰かがどこかで何かを言いました、それに対して「これこうだよ」って
いちいち日常的にツッコんでる人がいるとこれはギクシャクしてきますよね。

山田
特にファミリーレストランとかで若い店員さんをつかまえて
何か言っている方っていらっしゃいませんか?

松尾
います、います!
僕も言いますよ!

山田
あ、そうなんですか(笑)

松尾
「コーヒーになります」って持ってこられたときに
「いつ?」って聞きますからね、
「まだコーヒーじゃないのかな?」って

でもキョトンとされて終わりですけどね。
向こうも全然何のダメージも受けずに去って行きますよ。

山田
でもその「なります」というのが何故使われるのか?
というのを考えてみると意外と面白いんですね。

松尾
ですね、なんか直接言いたくないというか
言うことを遠慮なさっているのか?とか
あるいは字数が多い方が丁寧だ思われるとか

山田
名詞には普通「です」がつきます。
しかしこの「です」よりも「ます」の方がより丁寧に聞こえるんですね。
そういうところがあります。

松尾
じゃあ「ござい」を付けるといいですね。

山田
あ、そうですね。
ちょっと古風なメイド喫茶かもしれませんね。

松尾
「ござり」でもいいですけど(笑)

山田
「コーヒーでござります」

松尾
「かたじけない」っていいですよね(笑)

山田
そういうのはちょっとセッティングが難しいかもしれませんので
はい、チェーン店にはならないとは思いますが

松尾
マニュアルに書いてくれたら足繁く通うんですが(笑)

山田
まあ特別な方にはウケるでしょうね。

松尾
特別な方(笑)
前向きな言い方ですね、特別な方。

僕あの「ちょうどからお預かりします」っていう人が
ちょっとおかしいなと思うんですけど、

「1,000円からお預かりします」は
まあまあ「1,000円からいただきます」でいいじゃないか!って思うんですけど

1,000円から預かって何をどう返してくれるのか?
じゃあ預かったままなら取るんじゃないか?っていうね
難癖を付けるのは簡単なんですが

「ちょうどからお預かりします」っていうのだけは
ちょっと勘弁してほしいと思うんです。

山田
それはちょっと拡張した言い方です。
ただ今おっしゃったように「1,000円からお預かりします」っていうのは
いろんな解釈が出来るんですね。

日本語は省略がいろいろなされる言語です。
例えば今日来るときの新幹線で「いま私、新幹線です」っていう

松尾
ハハハ、面白い!(笑)
これは変身コーナーですね。

山田
「いま私、新幹線」どういう格好してるんだろうな?って見たら
普通のサラリーマンだったんですけれども(笑)

そういうふうに後ろを・・まあ述語の部分を省略して
いろいろに短くするというやり方はしょっちゅうやっているという
そういう言語なんですね。

松尾
「電話ちょうだい」ってね、「なんでお前なんかに電話機をやるもんか!」って。

山田
「風呂沸かす」ってね、何を沸かしてんだっていう。

松尾
水を沸かして湯にするんだろ!っていうね。

山田
鍋なんか食えるか!っていう、そんな世界ですね。

松尾
「ご飯炊いて」って米だろ炊くのは!

山田
そういった言い方もあるんですけど。

加藤
いくらでも言えますね(笑)

山田
いくらでもあるんですけれども、はい。

松尾
本当に面白い日本語の持っている幅広さとか奥ゆかしさとか
なんていうんでしょうかね?こう柔軟さというかそういうところの中に

実際使ったときに受け取り方で
違和を感じる人もいっぱいいるんだなっていう
世間話としては格好のネタですよね。

山田
ですね、ただそういったことを・・正しい日本語ということであれば
是非、学校でもっとこういう文法ということを基本にしながら
教えていくのがいいのではないかな?っていうふうに私は考えております。

松尾
やっぱりその学校で教えるときの・・そのなんでしょうか?
先生の考え方とかスタイルとかそういうことで何かご提案みたいなものはお持ちですか?

山田
国語の学習というとどうしても文学教材に偏りがちなんですが
こういう日本語は何故成立したのか?
この日本語はどういった部分で相手を怒らせてしまうのか?

そういったことを1つ1つの『で』とかですね、『は』とか。
こういったところに着目しながら、もっと勉強していただくと
皆が気をつけるようになる。

そして結果、よりよい言葉が使われるようになれば
松尾さんの怒りもほどほど収まっていくのではないかな?
というふうに思っております。

松尾
ありがとうございます。


(了)

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