2014/01/01

「日経ビジネス」チーフプロデューサー柳瀬博一が語る「ソメイヨシノは綾波レイなんです」

今回は2013年9月25日放送「荻上チキSession-22」
「セッション袋とじ」柳瀬博一さんの回
起こしたいと思います。


南部
よろしくおねがいします。
今夜のテーマは
「東京オリンピック招致で考える日本人の自然感って何だろう?」

荻上
「自然感」?
環境問題などのあの「自然」?

柳瀬
そうですね「自然」ですね。
前回のオリンピックってちょうど僕が生まれた年だったんですよ。
1964年、東京オリンピックの年

あの年ってけっこう象徴的で新幹線が通った年で
言わば「戦後終わったな」ってたぶん感じるときだと
僕は覚えてるわけは無いんですけど(笑)

であの・・オリンピックのときってだいたい
「お・も・て・な・し」をしないといけないから
街を綺麗にしますよね?

実は1つはインフラを作るわけです、道路を走らせたり
街綺麗にしたり、「夜の経済学」的に言うと
危ない店をちょっと閉じさせたり

荻上
エロい店を隠したりとか
あるいはまぁホームレスの方を排除したりとかね。



柳瀬
一方でやるのは何か?っていうと
「緑化」をだいたいやるんですよね。

だから東京のいろんなところの並木道も多くって
オリンピック前後にだいたい出来てるんですよね、あれ。

あとオリンピックの跡地、様々な競技場とか。
あれだいたい運動公園と自然公園をセットにして
再開発されますよね。

例えば「駒沢オリンピック公園」だったり
あとは選手村があった「代々木公園」だったりとか。

実はですね日本人の「自然感」特に緑に対する「自然感」って
昔から「日本はこうだったよね」って思ってることって
割と最近、なんと東京オリンピックからこっちぐらいに出来た共同幻想なんですよ。

で、2つあるんですよね。
1つはですね、いま東京の例えばこの赤坂だとかこの近所の街路樹の大半
これねドングリのなる木が多いんですけど、マテバシイっていう常緑樹なんですね。

例えばお台場だとか湾岸でけっこう緑がこんもりあったりするのが
羽田に行くモノレールから見えたりしますよね?緑がモコモコモコって。

あれは全部ここ3,40年くらいまさにオリンピックからこっちに植えた
ほとんどがマテバシイなんですよ。

面白いのがオリンピックが開催された前回の1964年以降
1970年代から80年代にかけて日本の本来の自然は照葉樹

すなわち「常緑樹がいっぱい生えてたのが日本も元々の自然だよね」っていう
そういう話をするのが流行ったんですね。

これは「照葉樹林文化説」って言って
いわゆる「京都学派」の中尾佐助さんっていう植物学者の方が
ブータンとかあっちを旅してですね、で作り上げた一つの学説なんですね。

これがなぜか文化系の学者やインテリにものすごく流行ったんですね。
これとセットになって、今のですね植林・植樹のパターンが
みんなどこに行っても常緑樹を植えるようになったのが70年代
80年代、90年代、今に至るんですよ。

じゃあこのマテバシイって照葉樹は元々日本あったよね?って言うけど
どこのものだと思います?

これね九州とか四国とか場合によっては沖縄の木なんですよ。
ずーっと南の木なんです。

東京に入ってきたのはたぶん大正時代なんですね。
で、大正時代に三浦半島とか房総半島にいっぱい植え始めるんですよ。

荻上
人工的に北上してきたというんですね。

柳瀬
そうなんです、なんで植えたか?っていうと
当時はですね、何に使ったか?というと東京湾って海苔の一大生産地だったんですね。
食べる方の「海苔」ね。

「海苔」ってホダ木をこうやって海に指して
あそこで海苔を養殖するわけです。

で、潮の強い堅い木なので海苔を養殖するために最初大量に植えたと。
ところがね海苔養殖がアミでOKになっちゃったんで、
代わりに薪炭に、ようは薪とる木になったんですね。

そしたらこれね強い木なんで三浦や南房総は
このマテバシイばっかりなんだけど
実は問題が出てきてるんですよ。

マテバシイは常緑樹で葉っぱが落ちないんで
夏も冬も木の下が真っ暗なんですね。
そうすると他の植物が一切生えなくなるんですよ。

実はこれは東京の公園とかさっき言ったお台場だとかに生えてる
マテバシイのところに行けば分かるんですけど、下に何も生えてないんですね。

南部
光、入んないですからね。

柳瀬
植物って光合成で増えますからね、あたり前の話なんです。
で、この「照葉樹えらいなー、いいな」って文化的な人って
案外、森を歩いてない人なんですね。

実際歩いてみるとマテバシイの林って恐ろしく生物作用性が低くて
これ論文もいっぱい出てるんです。
場合によっては土砂崩壊を起こしちゃうんですね、下草も生えないから。

実際にいま関東地方で例えば去年・おととしにあったんですけども
京浜急行の金沢八景の手前のところでトンネルの手前で土砂崩壊が起こった
事件ってありましたよね?

あれは小っさい流域があってそこの水と一緒に木が倒れちゃったんだけど
あれが典型的な常緑樹が大きくなりすぎて地盤ごとずり落ちちゃったんですね。

実は面白いのが、このマテバシイみたいな「常緑樹が日本の自然だよ」っていう
話っていうのがこの5,60年の話、似たようなものがもう1つあるんですよ!
桜!

荻上
桜?「日本人の心」だと言われているあの桜?

柳瀬
みんな見てる桜って?

南部
ソメイヨシノ

柳瀬
ソメイヨシノってあれ種類じゃないって知ってた?

南部
えっ、種類じゃないんですか!

柳瀬
「ソメイヨシノさん」なんですよ。
っていうのは、ソメイヨシノって品種じゃなくて
1本あるいは数本の原木を延々クローンして増やしてるから
だからいっぺんに咲くわけ、種類じゃないの。

荻上
ふーん、バナナみたいですね。

柳瀬
っていうか、あれ綾波レイ!
一緒なの、いや本当にあれそうでソメイヨシノってクローンなの。
綾波レイって思うと、綺麗だけどけっこう怖いでしょ?

南部
桜並木歩くのになんか・・

柳瀬
でね、あれはたぶん明治維新の前後に染井村って巣鴨のあたりにあった村で
どうも出来たらしい園芸品種で。たまたま。
名前が付いたのは1900年くらいになってからなんですよ。

有名なワシントンのポトマック川のソメイヨシノ1902年かなんかに
ワシントンに行ってるんですよ。で、日本のソメイヨシノがバーッと広がったのと
ワシントンにソメイヨシノが広がったのと時期が同じくらいなんですよ。

しかもソメイヨシノが本格的に増えるのは、まさに戦後
更にオリンピック以降そこらへんに植樹しまくってたからなんですよ。

で、ソメイヨシノって6,70年で枯れちゃうんですね。
なので今あるソメイヨシノって古い木ってほとんど無いんですよ。
せいぜい100年くらいで。

5,60年くらいするとどんどん受精が弱くなっちゃうんですね。
ってことはソメイヨシノがバーッと咲いてる絵は日本の心だって
戦後に出来た絵なんですよ。

荻上
あの「桜坂」みたいな。

柳瀬
ええ、だから例えば浮世絵とか昔の絵に桜がバーッていう絵が無いでしょ?

荻上
そうですね、見ないですね。
やっぱり松とか。

柳瀬
実は一方で歴史的でいま一番、緑が多い時代っていつだと思います?

南部
えっ、日本でですか?

柳瀬
日本の例えば縄文時代6000年ぐらいまぁ
せいぜい日本の文化が発達して2000年くらいですね。

2000年ぐらい前から2013年の今まで
一番日本の緑が豊かな時代っていつだったと思います?

南部
えー、今の話を延々聞いてたら・・

荻上
あっ、大人の答え方しようとしてる!

南部
えーと、今。

柳瀬
そう!今なんですよ。
なんでじゃあ昔は今より緑が少ないと思う?
だってなんとなく緑はずっと破壊されてるような機運がするじゃないですか?

荻上
現代人はね、こうなんか「自然を大事にしない」みたいな
そう言ってる一方で植えすぎた土木の杉の木とかどうするんだ!とか
林業とかね・・。

柳瀬
まさにそうなんですよ!
結局、いま木を使ってないから余ってるんですよ。
理由が3つあるんです、1つは林業が崩壊してる。

荻上
たくさん植えすぎたけど・・
雇用を生もうと思ってやったら時代のミスマッチで・・

柳瀬
商売になってない。
で2番目、むかし林業以上に重要だったのは林というのは燃料だったんですよ。
だってあらゆるエネルギーは木でやってたんですよ。

薪にしてたでしょ?炭にしてたでしょ?柴にしてたでしょ?
だから実は早くも中世どころか、それこそね平城京とかのあのくらいなの
700年とか800年時代に畿内の森がどんどん無くなって時の政府大慌てなんですね。

荻上
たぶんイメージとしては環境問題のVTRとか世界でみると
砂漠化してる地域ってあるじゃないですか?
あのイメージを日本にも当てはめてる人っているような気がしますよね。

柳瀬
ところが実は先進国エリアだけは逆なんですよ!
例えばヨーロッパは日本より先に緑無くなっちゃったんですよ。
一番はギリシャですね。

古代ギリシャ、だから数千年前に船を作るのと材木で使っちゃったのと
燃料で使っちゃったからギリシャ丸裸になっちゃってそこで終わりです。
オリーブしか植わってない、4000年経っても回復してないですね。

南部
ああ、そういうことなんだ。

柳瀬
そうです。で、イギリスも産業革命以前は大航海時代の悪さをした船は
全部木を使ってますよね?燃料も木を使ってますよね、丸裸。

南部
だからあの田園風景なんだ。

柳瀬
そう、石炭を使うようになって全部切っちゃったどうしよう!って言って
王様とか貴族が始めたのが「ナショナルトラスト運動」っていうやつです。
あれはだからここ200年ぐらいで戻したんです。

先ほどの先生のお話にあったドイツ、これも全部無くなって
だから「黒い森」とかあういうのはそれこそナチスがけっこう頑張ったんですけど
あれ植え直したんですね。

荻上
インフラ政策をやりましたからね。

柳瀬
そうなんですよ、だからヨーロッパの木って全部
人工的に植え直したんです、全部裸になっちゃった、1回。

荻上
大胆なシムシティって感じですね。

柳瀬
ところがヨーロッパは結局、雨が降らなくて寒いから日本ほど自然が戻りにくいんですね。
日本は結局ヨーロッパと同じくらい裸山になった時期というのが
それこそ1000年単位で続いたんですね。

江戸時代になって徳川幕府っていうのがなかなか先進的で御止め林(おとめりん)
こういうのを作って「これを切ったら死刑だぞ!」みたいな林をいくつか作って
林の再生をしたんですね。

荻上
死刑!「植物憐れみの令」みたいな。

柳瀬
それをやって、治水とかそういうのをやったって。
徳川幕府ってやっぱりすごく世界的にも先進的で
これは有名なジャレド・ダイアモンドも徳川の森林政策書いてるんですけど

それでだんだん林が戻ってきたんだけど、
明治維新になってまたまたエネルギーが必要になって切っちゃって

心理学者のオオタタケヒコさんという先生によると
明治30年ぐらいが一番日本の木が無くなっちゃった。
それでその後、燃料革命が起きて戦後にかけてようやく燃料が石油になったと

で、面白いのがみんなが思っている幻想の1つ
トトロの森ありますよね?「となりのトトロ」

荻上
ええ、でっかい木があってね。

柳瀬
あの絵ちょっと嘘なんですよ。

南部
ちょっと嘘?

荻上
まぁ三鷹の森行ったらあんなに茂ってないとかね・・
そういうのとは違いますよね(笑)

柳瀬
ほぼそれに近いんですけど、
トトロの設定って1953年って言われてるんですね。
昭和28年ぐらい。

で、あの頃の国土地理院の航空写真なんかを見ると分かるんですけど
林は戻りつつあるんだけど松と栗とかがパラパラにあって
航空写真で下が見えるくらいスッカスカの森なんですね。

森じゃなくて林なんです。
まだ要するに薪炭林として使ってるから、
だからそうやって使っててけっこう開けてるから松林に昔は松茸が生えたわけですよ。

荻上
トトロでも寛太がこいでるシーンとか
意外とまっさらな田園風景が広がってたりとかしましたね。

柳瀬
あそこらへんじゃなくてトトロが出る深い山があるじゃないですか?
あういう森はほとんどあの頃まだ無かったんですよ。

なんと、いつぐらいに戻るか?というとあの森に
トトロが公開された1980年代なんですよ。

30年ぐらいほったらかしになった日本の森が
深くなり始めたのが1980年代なんですよ。

だから皮肉な話だけどトトロや平成狸合戦ぽんぽこを公開したあたりから
日本の森は急速に深くなってくるんですね。
みんなのイメージと違うんです!

荻上
昔の風景とかでいうと例えばね、東大の三四郎池とか行くと
その周りが木が一応隠れているような感じになってるから
「昔はこんな感じだったのかな?」とか演出でおもったりするじゃないですか?

柳瀬
ところが違うんですね。
実際はだから浮世絵とか見れば分かるけど、
松が2本生えててあとはハゲ山じゃないですか?

荻上
はいはいはい、見晴らしがすごい良いですよね?
あれは別にああいったロケーションを選んでるというだけではない。

柳瀬
ほとんどああだった。
で、じゃあぐるっと一回りして日本人が一番気持ちいい自然って何なんだろう?
さっきのビョークが歌った「バイオフィリア」な自然何だろう?と。

荻上
「この環境いいわー」っていう。

柳瀬
それは何か?っていうと、
人間って結局、自然と人間を切り離したがるんですね。
これヨーロッパ人もそうなんですけど。

「人間のいない自然が本当じゃないか」っていうのが
ずーっとあったんだけど、ここ最近生物学の世界や
生態学の世界でも変わってきたんです。

というのは、人間込みで考えないと意味が無いからなんですね。
人間生まれてもう18万年経ってるから
人間が自然とコミュニケーションとって改変してもう18万年経っちゃってるから

人間込みじゃない自然って無いんですよ。
世界中にあらゆるところにいる生きものって人間だけなので

アマゾンだろうがカリマンタンだろうがセレンゲティだろうが
みんな密林だと思ってるところ全部人間の手が入ってるんですね、数千年前から。
これみんな知らないんです、入ってます。

荻上
人間好みの付き合い方をメンテナンスしながらっていうことですね。

柳瀬
人間の手が入った自然の方が実は対面積あたりは
生物多様性が高くなるんですね。

光が入って、果物が育って、そうすると日本人にとって
一番気持ちいい自然ってどこか?っていうと、
非常に簡単に言うとカブトムシがいる森なんです。

荻上
ほうほうほう、都内だとどのあたりですか?

柳瀬
都内だとね、この前ねこの番組のプロデューサーが
宇野常寛さんとクワガタとカブトを獲りにいった南大沢
八王子あたりは今でもいっぱいいるんですよ。

荻上
最近、大人なのにはしゃぐブームがありますよね。

柳瀬
ああいう人たちいますけど、
まぁ俺もそうなんですけども(笑)

実は結局日本に人間が来たときに
最初にやったのが照葉樹林を切り開いて
栗とクヌギを植えたんですね。

で、実が採れるでしょ?光が当たるでしょ?
栗とクヌギってまさに薪炭、薪になるわけですよね。

チキさんも子どものころ獲ったと思うけど、
カブトムシやクワガタって言えばクヌギの樹液じゃ無いですか?

荻上
まぁそうですね。

柳瀬
要はクヌギとか栗って元々そんなあった木じゃないんですよ。
あれは日本国中、人間が移動しながら縄文時代の1万年前から
人間が殖やしていった木なんです。

カブトムシの絵っていうのは例えば1970年代に
伊藤若冲がちゃんと絵に描いてるぐらい
日本人にものすごい親しい虫なんだけど

なんてことはない、それは7千年から1万年前から
日本人が作った自然の一番近いところ
人間が使って作った林のクヌギ

クヌギの枝を切ってこれが実は田んぼの肥料になったりしてたわけだし
葉っぱを落ち葉にして、これ堆肥にしてて
そこでカブトムシが育って、薪にした木からクワガタ出てきたり

だからクワガタ・カブトムシってアマゾンとか熱帯のジャングル行くと
なかなか捕まらないんですよ、日本の方が捕まるんですね。

荻上
ヘラクラスオオカブトとか?

柳瀬
なんかの方が捕まりにくいんですよ。
何故か?というと日本人が作った自然にフィットしたのがカブトムシで
言ってしまうと、今この年に一番いる生き物ってゴキブリじゃないですか?

荻上
はい、いますね。

柳瀬
あのゴキブリってアフリカの自然の生き物なんですね。
あれは世界中に数百年で広がったんだけど、
人間が作った二次的環境の暖かくて湿ってご飯のあるところに増えた

だからちょっと嫌な感じがするかもしんないけど
カブトムシって自然状態で人間が暮らしたときの隣に住んでたっていう
意味で言うとゴキブリに近いんですよ。

ということはどういうことか?っていうと、
日本人が気持ちいい自然っていうのはカブトムシがいるような自然だから

僕が思うのはおそらく2020年のオリンピックが終わったあと
また自然公園にしたりとか緑植えたりしますよね?

そのときさっき言ったここ50年くらい流行ってるマテバシイを植えて
なんちゃって照葉樹林作ったりソメイヨシノを植えるよりも
元々ここ数千年付き合ってきたクヌギとか栗とか色んな木を植えて

しかも植えっぱなしにしないで、子どもと一緒に植樹をしたあとも
お世話をしたり虫取りしたりっていう林が出来た方が
実は自然度が高まるし場所として楽しいですよね?

さっきの我々のように子育て世代にも楽しい場所になるじゃないですか?

荻上
そうですね、最近「都会人は遊ばない」とか
「昔の人は・・」って言うんだけど
いつの昔と比較してるのか?って話ももちろん出てくるでしょうけどね。

とはいえ、なんでしょうね・・自然と言っても
環境とか土砂災害とか起きないようにいろんな知恵が今は入れやすくなってるんで
まぁなんか瞬間その場限りのことでね、アホなことをするんじゃなくて多角的な形でね・・。

柳瀬
そうなんです、長期的な形でしかもちゃんと
自然と人間は一緒に暮らしてるんだ!ということで
自然だけ守りましょうというのはたぶんダメだし

セットで考えましょうっていうのを
このオリンピック、かつてのオリンピックと今回のオリンピックを契機に
たぶん緑化をやりますから

そのときにちょっと今日の話を
思い出していただけるといいなと思います。

(了)

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