樋口真嗣監督が語る「意外とみんなミニチュア好きなんじゃん!」

2012/10/03

Dig 藤木TDC 特撮博物館 樋口真嗣

t f B! P L
今回は、2012年8月23日放送「ニュース探求ラジオDig」内
「藤木TDCのCDT」ゲスト・樋口真嗣監督を起こしたいと思います。

音声は配信期限が過ぎたため、ありません。

藤木TDC(以下、藤木)
これからもしね、まだ『特撮博物館』行ったんですけども。
行ってない人に是非アドバイスしたいのは、樋口さんが作られた
『副館長の余計なヒトコト。』っていうフライヤーのようなものが
入り口の近くのさりげなく置いてあるんですよね。

樋口真嗣(以下、樋口)
これ本当に最後の1週間で作ったので。
最初、決まってなかったんです。

藤木
でもこれを読むか読まないかで大違いなんですよ。
博物館の見え方っていうのがね。
しかも全部手書きで書かれてて、こういうのはね・・
SF大会とか初期コミケみたいなもので
みんなこういうものを作って配ってたりするような・・。

樋口
俺の中では、宮崎駿さんっぽくやったつもりだったんですけどね。
ジブリ主催なんで、ジブリっぽさで宮崎駿さん・・
しかもこの紙全部ポニョのメモ用紙で書いてるんですよ。
全部これ消してあるんですけど。「ポニョ」って全部書いてある・・。

「ポニョ」のメモ用紙がすごい分厚いのが余ってて
それに全部書き始めて・・。



藤木
手書きでイラストと文字で展示のみどころみたいなものをですね。
そういうものをビッシリ裏表に書いてあってこれが実に参考になるというか
展示のキモですよね?要点を実にまとめてあったりとか。

樋口
そうですね、だからあのー・・藤木さんだとかだと分かると思うんですけど。
子供のころに見たものが全部ミニチュアだったら、
ミニチュアであることって当たり前だったじゃないですか?
でも今の子供たちって「何でミニチュアで撮ってるの?」って言うんですよね。

藤木
ああ、CGが当然だったりするわけですからね。

樋口
しかもそこにあるウルトラマンがバンザイしてる人形とかあるわけじゃないですか?
「何で人形で撮ってるの?」って言われるんですよ。
「何で?」って言われた時に、自分たちも「そう言われれば当たり前に撮ってたな」と。
疑問を差し挟まずに撮ってたんですね。それを先輩たちがやってるから。

でもよくよく考えたら、「そういえば何でなんだろう?」って。
ある意味、自分たちも「じゃあ特撮って何だったんだろう?」って。
好きで始まって仕事でやってたけど、でも実は「何でこれそうなんだろう?」って・・

藤木
そうなんですよね、怪獣の着ぐるみとかもそういうウレタンで
あんな人間が中に入るでかいぬいぐるみ作って入って動いてるのって
あんまり外国では無いですよね?
モーションコントロールとかクレイアニメだったりとかするようなことはあってもね。

樋口
「何でなんだろう?」っていうのをもう一回ね・・。
実はあれなんですよ、展示をやることによって自分たちが
もう一度学び直したっていうことがすごく多かったんですよね。
「何でなんだろう?」って考えた時に楽しかったですけどね。

藤木
それとね、僕はやっぱりその「副館長の余計なヒトコト。」っていうフライヤーの
一番最初に書いてあるんですけど、
展示品を集めるのがまず相当大変だったんじゃないか?っていうのと。
まぁそれみんな捨てたり無くなってたりするようなことがあって。
それと有っても非常に壊れた状態だったりとか汚れた状態だったりするようなものが
多くてそれを修復して展示しないと・・。

今回展示されてるようなピカピカの状態にはならないっていうような
ちょっとその辺のご苦労のことを。

樋口
まぁ俺は全然苦労してないですよね。
たまたま私と庵野と共通の友人であって「ガメラ」の時から
怪獣造形をお願いしてた原口智生っていう友人がいるんですけど。


彼が、本当に一人でいろんなものを直してたんですよ。
その特殊メイクという仕事に対して自分の中でそろそろ違う事やりたいって
自分の中で本当にやりたいことをやりたいってなった時に
何を始めたか?っていうと残されたミニチュアを直すことだったんですね。

藤木
原口さんはこの「特撮博物館」の図録売ってる最後の方に
修復のことについて書かれてますよね?
マイティジャックのでかい3mくらいあるミニチュアを修復する・・。

樋口
あそこにあるミニチュアの半分以上は原口さんが直してるんですよ。
実は、残ってるものってやっぱりボロボロなんですよ。
かといってそれをみんなが望むような綺麗な形にするのではなくて。
昔、撮影所で使ってた時のような状態に復元するっていうことに
ものすごいこだわって作ってくれたんです、原口さんが。

藤木
色とかを出すのがすごく大変なんですよね。
質感とかもミニチュアの質感っていうのがあると思うんで、
ただ直せばいいっていうもんじゃなかったです。

このコラムでも1回やりましたけど、「ウルトラマン・アート!」の方に行くと
今回の展示にもかなり協力してると思いますけど、
西村祐次さんっていう方のコレクションで。
それは本当にボロボロのままで、ウルトラセブンのブーツとか
当時使ってたものが本当にボロボロのままで残ってて、
ベムラーの尻尾のかけらとかが展示されてて・・。

樋口
まぁ今回も半分は西村さんのコレクションなんですけど。
残りの半分は原口さんの新たに作ってくれたのを。

藤木
あと怪獣の着ぐるみそのまま残ってるものはほとんど無いですよね?

樋口
まぁ怪獣の着ぐるみは基本的にラテックスって言って
空気に触れてどんどん劣化していくゴムなんですよね。
ゴムなんでどんどんボロボロになってしまってもう残らないんですよ。

今回たまたまメカゴジラかっていうと、
あれだけウレタンなんですよ!
布団とかに使うウレタンあるじゃないですか?
あれのすごい密度の濃いやつのシートを組み合わせて作ってるんで
ゴムを使ってないんですよね。腐らないんですよ!

江藤愛アナ(以下、江藤)
なんでそれだけ生地が?

樋口
メカだからですよ!

藤木
メカ感を出すために・・。

樋口
カチカチのそういうの、だから設定上は「スペースチタニウム」っていう
宇宙の合金なんですよ!出来てるのはウレタンなんですけど。

藤木
あれは東宝にあったものなんですか?個人蔵ですか?

樋口
個人蔵です、あれも西村さんが。

藤木
あとは樋口さんがやられた「ガメラ2」の時の着ぐるみですか?
それとあとキングギドラがあるくらいですよね?

樋口
あとゴジラ・・。

藤木
ああゴジラがありますね。

樋口
小林知己さんって方が作られた・・何の話かさっぱりわからないと思いますけど・・。
ゴジラって1種類じゃないんですよ、1作品ごとに色々と形が違う・・。
平成初期の「平成ゴジラ」と呼ばれてるゴジラのほとんどの形を作った人がいるんですけど
その人の工房を再現するという形でゴジラの型を置かせてもらっている・・。

藤木
ゴジラファンは「あの時のゴジラがいいよね!」っていうのがあるんですよ!

樋口
それで色々な派閥争いになるんですよ!
お互いを認めない(笑)

藤木
今回の博物館、自分の中では「学習する」っていうことをおっしゃってましたけども、
結構多くの人が来てましたよね?
やっぱりやってみて意義はあったっていうような感じは?手応えはありました?

樋口
手応えというか、「こんなにみんな特撮が好きなんだ!」って。

江藤
意外に女性が多かったですよね?

樋口
あ、そうですか!ありがとうございます。
何だろうな?自分としてはより良い映像を作ろうと思って
「じゃあ良いところはミニチュア使ってそうじゃないところはCG使ってもいいじゃん!」
って思ってたわけですよ。

藤木
まぁそういう世代ですよね?

樋口
分け隔て無く良いものを使うってつもりでいたら、
「意外とみんなミニチュア好きなんじゃん!」って。
「ミニチュアの方が喜んでくれるってどういうことだ!」とか。
結構その辺は正直混乱しましたよね。

藤木
でも大変さでいくと現場のね、映画の製作段階の混乱さでいうと
たぶんミニチュアの方が相当困難なわけですよね?

樋口
いや困難じゃないですよ!お金がかかるだけなんで。
あのお金を出してくれれば全然困難じゃないんですけど、
みんなお金を出してくれないから困難になるんですよね。

なので、ラジオの前のお金を出す人!
お金を出して下さい。

藤木
今回、樋口さんの監督作の新作で「巨神兵東京に現わる」っていうね
ショートムービーが「特撮博物館」に行くとあまねく見られるというような感じですけども。
あれは映像としても非常によく出来てたんですけど、
新しく挑戦したところもたくさんあったと思うんですけど。
どんなご苦労があったとか、どういうところを見て欲しいとかありますか?

樋口
いやまぁ短いんで、見てればすぐ終わっちゃう(笑)
だから見逃さないで欲しいなっていうのはあります。

藤木
でも結構怖いんでね。

江藤
怖いですよ!
子供がねウワーンって泣いてたんですよ・・。

樋口
まるであの時の自分のようです・・。
むかし子供の頃やっぱり泣いて。

藤木
怪獣映画を見て、怪獣じゃなくても「マタンゴ」とかあういうSF映画を・・。


樋口
やっぱり子供の頃みると怖いんですよね。
でも怖いんですけど、それが実は昔だったら「少年マガジン」とかのグラビアを見ると
「あれは実は映画だったんだよ」って当たり前ですけど、「人が作ったものなんだ」っていう
撮影風景の写真とかが載ってるわけですよ。

そういうのを見て、「ああ!なんだ!泣いて損した!」とか思いながらも
「あれを作った人たちってすごいな!」ってそのころ思ったんですよ。

だから実は今回の「巨神兵」って何のために作ったか?っていうと、
「これはどうやって作ったんだろうか?」ってことを説明するために作った。

藤木
メイキングの方がむしろ重要なのかもしれないですよね。

樋口
作ってる過程をそもそも見せるという前提で、
「じゃあどういう話にしようか?」っていう。

藤木
だから映像だけ見てると、「ああCGなんだ」って思ってたところが
実はミニチュアで全部作ってたってことになると「ええーっ!そうなんだ!」っていう


ネタバレしていいかわかんないですけど、
最後の方に爆発シーンが・・核爆発みたいなシーンがあるんですけど、
「ああ、CGでよく出来てるな」って思ったら、実物で綿を拠ったものが飾ってあって
「これだったんだ!」っていう。

樋口
意外と綿って多いし、別にすごいそれに対して「素晴らしい!」って
言って頂けるのは嬉しいんですけど。
実はジェームス・キャメロンが昔やってるんですよ。
「エイリアン2」っていう映画で最後に同じようにエイリアンが巣食ってる
発電所みたいなのを爆発しちゃうわけですよ。
爆発して命からがら助かって良かった!って時の全景のカットが
本当に綿なんですよ同じように。

あの頃まだCGが無い時代だったんで、ジェームス・キャメロンって今でこそ
「アバター」とかでものすごいCGを使って・・湯水のように使って
大成功している監督ですけど昔は綿を使って同じように核爆発を撮ってたわけですよ。


藤木
だから何回も行きたくなるのは、そういう素材とかがわかるんで
前半に宇宙船とかメーサー殺人光線銃とかいろいろ
ミニチュアの車とかロケットとかそういった武器とか出て来るんですけど、
よくみると木製とかね、木を削って作ったりブリキを叩いて作ったりするっていう
手作業感っていうのがね、わかるのとわからないのとだと有り難みというか・・。

要するに近所のおじさんが木を削って何か飛行機の模型を作ってくれるようなものの
延長上であういう未来的なロケットも作られてるっていうがね事があったりして。
そういうところを知ると、より「ああ、特撮ってこういう時代のものだなぁ」っていうのが分かるし。

樋口
それが結局・・なんだろうな・・。
アメリカから「スターウォーズ」がやってきた時に
「ブリキのロケットじゃお客さん喜ばないよ」って
全部あの辺のミニチュアを捨てちゃったわけですね。

藤木
小松崎茂さんのタイプの流線型の・・
いわゆる子どもが想像するロケット的なものは全部捨てて
色んなディティールがごちゃごちゃ付いてる・・。

樋口
もうプラモデルの部品がぐちゃぐちゃっと付いた
そっちの方がリアルに見えるしカッコイイとみんなその時は思ったわけですよ。
俺も思ったし!

藤木
そうですよね、まぁまた「エイリアン」とかの時代になるとまた全然変わってくるし。
特撮のミニチュアのデザインとかがだいぶ違ってくるんですけど。

樋口
でもそうなると、どういう事が起きるか?っていうと。
倉庫に入ってる面積ばっかりとるブリキのロケットなんていらないっていう
話になるわけですよ。

「もう1回これ撮影で使えますか?」って言ったら、
「そんなの誰も使わないよ・・」ってそういう時代があってやっぱ全部捨てちゃったんです。
その時に生き残ったのがあそこに残ってた今回展示されてるロケットたちなんですよ。

藤木
・・っていうね、激動の時代を生き延びた本当のわずかなものを綺麗に修復して・・
もう本当はホコリまみれだったり・・。

樋口
いやもうボロボロだったものを全部綺麗に・・。

藤木
あのー、地下に下りていくと特撮倉庫がセットみたいに作ってあって、
そこに展示してるものがあったりするじゃないですか?
あれの中の見える所に置いてある戦車とかもあるんですけど、
棚の上とかに何気なくあったりするという、このフライヤーの中にも
「何かがどこかにあるよ」って言って書いてあるようなものが
棚の上のポコッて置いてあったりして、
「こんなところにこんなふうに置かれてるの!」っていうのを想像すると・・。

樋口
だからあそこのあるロケットたちも綺麗になる前は
あれと同じようなもっとサビだらけでボロボロの状態でそこに置かれてたんですよね。

藤木
というね、もう聞いても聞いても聞き足りない感じがするんですが。

樋口
楽しいですか?こういう話は。

藤木
いや、僕はすごく楽しい!と・・。

樋口
社会と向き合った話をしなきゃいけないと俺は教わってきたんですけどね・・(笑)

(了)

話題に出ている『特撮博物館』は、
東京都現代美術館にて2012年10月8日(祝)まで開催しています。

実際に『特撮博物館』に行かれた方の感想の記事も併読されると
より雰囲気が掴んでいただけると思います。

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