ライター・藤木TDCが語る「卯月妙子『人間仮免中』は今年一番衝撃を受けた本」

2012/07/16

Dig 人間仮免中 藤木TDC

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今回は、2012年6月21日放送ニュース探求ラジオDig
DigTag「藤木TDCのCDT」を起こしたいと思います。

音声は、配信期限を過ぎたためありません。

藤木
今日紹介するのは、『人間仮免中』という
「仮免」っていうのは自動車なんかの運転免許の「仮免」ですね。


江藤
まだ人間じゃないって事ですか?

藤木
うー、そういう意味合いを含めてだと思うんですけども。
マンガの本でですね綺麗な黄色い表紙ですごい可愛い本でしょ?

江藤
なんか一見ちょっとマンガじゃないような気がしますよね?

藤木
うん、かなり分厚くて330ページくらいあるマンガなんですけども。
この1冊で完結してる本で。

内容について話す前に・・
僕ね、あまりマンガっていうものをそれ程みんなほど読まない人間で、
週刊のマンガ雑誌なんかはたぶん1冊も定期購読してるものがない人間なんですよ。

自分で書いたりしている『漫画ナックルズ』とかそういう雑誌っていうのは
送られてくるんで読むんですけども。
基本的にねマンガを読む絶対数っていうがすごく少ない人間で。
お仕事関係で、ラズウェル細木さんのものとか読んだりするんですけどね。
ウナギの本とかね。江藤さん持って帰ったりしてましたけど。


江藤
はい、私の大好きな・・、堪能しました。

藤木
映画で話題の『テルマエ・ロマエ』とか一度も読んだことがないんですよね。
家でマンガ読むとしたら、松本零士の戦場マンガシリーズとか、
あと、梶原一輝の『愛と誠』を読み返したりとか。


古い昔読んだマンガを読み返して、
「あっ!こういう事だったんだ!」って再発見をしてニヤニヤしたりするような
その程度のマンガ読者なんですけども。

最近ね、知り合いからね。
「卯月妙子の『人間仮免中』読んだ?」って
何回も何回も言われるんですよ、会う人ごとに。



江藤
えっそれ、いろんな人に言われるんですか?

藤木
いろんな人に言われるんですよ。
でまぁそれで「これは仕方ないなぁ」と思って買って読んだらね
すごくちょっと圧倒されるくらい凄かったんですよね。

ただね、人が僕に卯月妙子の本を「読んだか?」と聞くか?っていうと。
実は、卯月妙子さんって元AV女優をしてた人なんですよ。
といっても90年代中盤の頃なんですけども。

僕もAVライターずっとやってて、卯月さんがデビューした頃の
AVってすごく高く評価したひとりなんですよね。
彼女がどういうAVに出たか?っていうのは過激な話になるので、
まぁちょっと後に回すとして・・。

江藤
後で言うんですね・・。

藤木
まぁその『人間仮免中』っていう本の中身なんですけども。

江藤
これじゃあ卯月さんが絵も描いたっていうことですよね?

藤木
そうです、絵と話を全部一人で描いてます。
これあの中はマンガなんですけども、
小さいエピソードがたくさん入ってる感じの。
全てご本人の実際に経験した生活の中での出来事を書いてる
「コミックエッセイ」っていうジャンルがあってですね。

例えば、『ダーリンは外国人』だとかですね、
『ツレがウツになりまして』とか特に男性も書いてる人もいますけど、
女性でその自分の日常生活とか、生活の中から感じたことを
文章じゃなくてマンガでこう書いて表現するっていうのが
結構人気があって。


僕なんか、編集者と話をすると
「誰かコミックエッセイ上手い人いない?」みたいな
「描ける人いない?」みたいなことを結構しょっちゅう聞かれるくらい
「コミックエッセイ」っていうのは売れるジャンルっていうかね・・
出版の中では売れるジャンルになってるんですよ。

『ダーリンは外国人』とか『ツレがウツになりまして』のだと、
非常にテーマも重いんだけども、ちょっと軽く笑わせたりとかね、
教訓になるような・・。

江藤
明るく描いてる感じがありますよね?

藤木
そうなんですよね、あういうのがいい・・。
シニカルに描いたりとか笑わせたりとか泣かせたりっていうような
ことを描いていくようなジャンルなんですけど。

そういう意味ではこの卯月妙子さんの『人間仮免中』っていう本も
ベースになってるのは、前付き合ってる彼氏と別れて、
25歳・年の離れた男性で、卯月さんが36歳の時の話かな?
だから60代・・。

江藤
61の人と結婚したんだ。

藤木
結婚は、最後の最後の方でプロポーズするぐらいなんですけども。
交際して一緒に住んだりするというような。
基本的には、「彼氏は25歳年上・・」みたいな話のベースはね。

それだけども充分話になるっていうのはあるんですけど、
もう一方にはですね卯月さんが統合失調症という病気を患ってる。
それでまぁ過去に入院歴があったりするということがあったり基礎にあって、

凄いのは最初ページを開いて話が始まるところって
どうやって話が始まるか?っていうと。
主人公の卯月妙子さんがですね道路の歩道橋に上っていって
そこから飛び降りるっていうところから始まるんですよ。
これまぁ自殺ですよね。

江藤
これも本当?

藤木
これ本当なんですよ。
コミックエッセイだから全部本当に話なんですよ。

で、実はそれはあくまで導入部で。
あとは前と彼氏と別れて新しい25歳・年の離れたダーリンと
出会っていくっていう話になってくるんですけど。
その中でも、彼女はそのずっと統合失調症抱えてるんですよね。

江藤
幸せなのに?

藤木
幸せなんだけども病院には通っていて
しかもそのお医者さんとの会話が凄かったりとか
どういう薬が出て、普通の人だったら飲まないくらいの
大量の薬を飲んでるみたいなこととか、
薬の種類とかすごく克明に書いていたりするんですね。

統合失調症っていう自分を客観的に見つめながら
それと自分の日常生活っていうのを並べて書いていってるんですよね。

もともと卯月さんってあのAV女優をやりながら、
マンガ家を目指してた時期もあって絵はすごく上手くて
中学生とか高校ぐらいの頃からずっとマンガを描いてたみたいで

2000年に『実録企画モノ』っていうコミックを出していて、
それもすごく絵が上手くてビックリしてちゃんと話もマンガになってるというか
これプロの仕事なんですよね。


その後も何冊か出したりしてる、
基本的には女優でもありマンガ家でもあるタイプの人だったりんですけど、
この10年くらいずっと音沙汰がなくて「どうしてるんだろうな?」と思っていたら
実はこの10年間にこんな凄いことになってたことがあるんですけども。

まぁ25歳年上の彼氏とのぶっ飛んだ生活っていうのが
笑えるような話が次々と出て来るんですけども。
それと統合失調症と闘わなきゃならないっていうのがあって
あまりにも彼氏との生活が幸せすぎて症状が出なくなってくるんですね。

例えば、幻聴だとか被害妄想だとかそれまで出てた重い症状が
だんだん出なくなってくるんですよ。

江藤
その25歳年上の人と一緒にいることでね。

藤木
尚かつね、それで幸せを感じていって
「ヨガをやったら統合失調症がよくなるんじゃないか?」って考えてですね。
お医者さんは「そんなこと絶対無いから薬はちゃんと飲み続けた方がいい」って
言ってたんですけども・・
卯月さんは「ヨガをやったらすごく調子が良くなった」って
薬をどんどん減らしちゃうんですよね。


今まで飲んでた量の半分になった「やったぜ!」って思ってたら、
それが結果的には病気の進行を進めていってしまうことになって。
その結果、本の中盤で冒頭にあった飛び降り自殺のシーンになってしまうんです。
幸せの絶頂の中でなぜか飛び降り自殺・・

江藤
突然ってことですか?

藤木
ほぼ突然ですよね。
だからそれがやっぱり統合失調症の症状でもあるっていうことなんですけども。
ある日突然やってきて、それで死んでしまったら
もうこの話は無いんですけども。

顔をね・・下あごを複雑骨折で粉々にしてしまって、
そっからその入院闘病生活っていうのが始まるんですね。
だから後半半分っていうのは闘病生活なんですよ。

まずその統合失調症っていうのは、
怪我したからって無くなるものじゃないですから。
ただその止血剤だとか、痛み止めだとかそういった薬を
沢山使わないといけないので、まぁ統合失調症に関する薬なんかは
「ちょっと止めましょう」って話になってくるんですよね。

そうすると入院してものすごい痛みに耐えながらも、
例えば、幻覚とか幻聴とか被害妄想とかそういうのに
ものすごくこう悩まされるわけですよ、

尚かつそこに見舞いの人がやってきて
幻覚を見るからその人たちをすごく変な形で心配しなきゃならなかったりとか、
「あなた殺されるから早く逃げて!」みたいな
顔を壊しているから喋れないから筆談で
「殺されるから逃げろ!」みたいなことを言ったりするっていうようなことをですね、
すごく客観的にたぶん思い出して書いていると思うんですけど。

ものすごく客観的に尚かつ時々笑えるような要素も含めながら、
書いてたりするんですよね。
だからこれ実は軽いコミックエッセイだと思って読み始めると、
途中からものすごく重くディープな世界になっていってしまうんですよね。

特にその女性ですから。
卯月さんってねAVとか出てる頃っていうのはちょっとモデルっぽい感じで
例えば小雪さんとか富永愛さんみたいな感じでちょっと細くてスラッとしてて
AVに居なかったタイプの人間だったんですよね。
そういう人がすごいビデオをやるということですごい注目を浴びたんですけれども。


その人が顔を全部壊してしまって、
自分の顔が壊れてどんなにひどい事になったか?とか。
それが医療技術によって少しずつ修復されていくんですけれども。
どういうふうに治療されたりとか、どういうふうにリハビリしてるか?ってことを
マンガにして本当にものすごいことなんですけど、
客観的にちょっと笑えたりするような感じで書いてるんですよね。
それ自体がまず客観性と言うこととマンガとしてのレベルの高さということに
まずビックリするということですよね。

それとたぶんこれ、ご本人も統合失調症を現在進行形で続いているっていうことを
あとがきで書いているので、最初の方と最後の方と
かなりタッチが違ってたりするんですよね。

どんどん絵が白くなっていって、っていうのは
たぶんその墨を塗ったりとかスクリーントーン貼ったりする作業っていうのが
かなり大変だったと思うんですよね。

だからそういう病気の進行と本の製作過程っていうのが、
どんどんどんどんリンクしていって、尚かつ病気もよくなってないと。
だけど彼女はなぜ彼氏との生活に希望を持ったのか?とか
生きていくのはどういうことなのか?みたいなことを
かなりリアルに書いてるんですよね。
絵はすごいゆるいタッチでしょ?

江藤
なんかパラパラってみるとそんなふうに書いてるとは思えないですよね。

藤木
だけど、書いてる内容はものすごく重くて。
ちょっと一般の人たちがあまりタッチ出来ないような事なんですよ。
ましてや、統合失調症っていう病気自体かなりアンタッチャブルな
マスコミでいうとアンタッチャブルな部分っていうのがあったり、
深くは触れてはいけないみたいな部分があるんですけども。

それについて彼女はご自分の病気なのでかなり詳しく書いてる。
どういう症状が出たり、症状が出た時どんな感じになるか。
病気そのものを理解する本にもなってるし、
例えば、闘病とか怪我のリハビリとかそういうことにもなってるんですよね。

帯に「生きてるだけで最高だ」って惹句がありますけども、
最終的にはそういう結論に達していくんですけども。
それだけじゃなくて、更にそのハッピーエンドがあった後に
まだいくつかエピソードが続くんですよね。

それを見ると、「ハッピーエンドで生きてるだけで最高だ!」だけでは
終わらないんだなと思うけれども生き続けることの意味っていうか、
人間としての生きている意味みたいなものまでも描かれてる
かなり壮絶で重たいコミックエッセイなんですね。

だからこれ、精神の失調に苦しんでいる人たちなんかの
理解の手助けにもなると思いますし、
自分たちが日ごろ思い悩んでいることっていうのは、
非常に些細な事だなぁと思う様な感じ方もある。
そういうような本になっているんですよ。

で、ちょっとそのAVの話に戻すとね。
卯月妙子さんっていう人は94年に「便器の出るテレビ」
「元気の出る」じゃなくて「便器の出るテレビ」っていうですねAVに出ててですね。
これ彼女ね、バケツ一杯に溜めたものを頭からドバーッって被るんですよ。

それはなんでか?っていうと、
当時AV男優とか監督をやっていた井口昇くんっていうですね。
今あの「電人ザボーガー」とかですね、「ゾンビアス」とか
普通の映画を撮ってすごい人気になった映画監督がいるんですけども。


彼がAVの男優とか監督とかやっていた時代に、
井口くんが「ザ・タブー」っていうビデオでやっぱり同じように
頭から被るっていうパフォーマンスをやって。

それに感化されて影響されて
「私も井口くんのようになりたい!」って言って
AVに自分から応募してきて、そういったパフォーマンスをやったりした人なんですよ。

で、さっき言ったようにすごい美人だから
みんな「えーっ!」って驚いて「こんなビデオがあるのか!」っていうようなことで
すごい評価されたんですけど。
その後もね例えば、ミミズを食べたりとかものすごい過激なAVに出て、
その頃94年とか95年だったんですけども。
そういったノーマルセックスから離れた過激なパフォーマンスっていうか
異常なパフォーマンスをやるAVがすごい注目されてた時期があるんですよ、一時期ね。
もう今はあまりマイナーなものになっていってしまったんですけど。

そういうのに出てて、ちょっとものすごくインパクトを残した女優さんだったんですけども。
当時はまぁあまりその彼女曰く、子供の時から統合失調症的な症状は出てたって
いうふうに言うから、AV自体もその流れの中の一部であるという位置づけも
出来るんですけれども。

まぁ当時は、過激で美人でちょっとこう他とは存在が違う感じのAV女優さん。
彼女はまぁこのマンガの中でも、AVに出てしまったことを
何かしらやっぱり心の中で負担に感じてるような書き方もするんですけども。
ただまぁそれは全部カミングアウトしてるようなことなので大丈夫だと思うんですけど、
検索すると配信されてるようなものでものすごいビデオが結構たくさん
出て来ることは出て来るんですよね。

この人はその後2000年代近くになるまで、有末剛さんっていう
SMの縛る仕事をする「縛師」さんっていうんですけども。
杉本彩さんとか小向美奈子さんが出た「花と蛇」っていう映画があるんですけど、
あれで緊縛担当をしたね有名な縛師さんと交際してたんですけども。


その人と別れるところから始まって、
人生の山と谷を一気に駆け巡るような部分の日々を
描いたものなんですよね。

彼女が憧れてAVに入るきっかけになった井口昇監督っていうのも
すごい才能を発揮して日本映画界で活躍している人なんですけども。
まぁその卯月さん自体もかつてはAVですごく注目されてね、
今やこういう、僕が今年一番衝撃を受けた本でもあるんですけども
こういったクリエイティブな才能を発揮して。

当時、井口くんって平野勝之監督・・
『監督失格』っていう映画を撮ったその監督とかの一派でやってた人なんで
『監督失格』とか好きな人とかは『人間仮免中』もすごく面白いと思います。
一読の価値はあるんですけども、かなり重たかったり、
影響されたりショックを受けたりする本なので、
ちょっとご注意しながら読んで頂きたいんですけども。


今日のおすすめとしては『人間仮免中』すごく良かった本なので、
おすすめしたいなと思ってます。


(了)

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