映画監督・三宅隆太が語る「スクリプト・ドクターというお仕事」(3)

2012/01/21

スクリプト・ドクター タマフル 宇多丸 三宅隆太

t f B! P L
今回は、TBSラジオ・ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル
2009年9月19日放送分サタデーナイトラボ
「シリーズ"エンドロールに出ない仕事人"第1弾
〜スクリプト・ドクターというお仕事〜」

を起こしたいと思います。
3本のpodcastにて配信されているうち、今回は後編を起こしたいと思います。
(1)はこちらから
(2)はこちらから

前編は「スクリプト・ドクター」というお仕事とは何なのか?
邦画業界でもあまり知られていない存在であり、名乗っている人も少ない
その職業について映画監督でもあり、スクリプト・ドクターの三宅隆太監督が
語られています。


音声はこちらから


宇多丸
先ほどは持ち込まれたそういう問題のある脚本
「よくわかんなくなっちゃった・・、これどうしていいかわかんなくなっちゃった」って
持ち込まれた脚本をどこが悪いのかを診断していく、
お医者さんの診断の仕方を教わりました。
これある意味シナリオの読み方講座でもありますね。
僕もすごい目からウロコのお話でございました。

ということで、スクリプト・ドクターがそうやってく中で
なんかこうあります?
チェック方法・診断方法はこんなものでいいですかね?
実はもっと細かくあったりするんですか?

三宅
あの・・(笑)
いいですか?もう一歩踏み出しても・・。

宇多丸
もう一歩いきましょうよ!
これだって脚本チェック法だから一番僕らある意味・・。

三宅
そうですか!じゃあですねー、
まぁ推進力の問題をクリアするというよりも、
その問題があると気づいた場合にその主人公が共感できるキャラクターになってるかどうか?
っていう問題があるんですね。

主人公が追い込まれた方が面白いんだとするのならば、
主人公に感情移入していなければならないわけですね。
で、この主人公への共感っていうのは、
あの良く誤解されるのは、じゃあ「いい人」だったら共感できる主人公なのか?と言うと、
そんなことは全然なくてですね、いわゆるピカレスクな主人公でも構わないわけですけども。

大事なのは、何で感情移入出来ないのか?という理由を探ることです。
もしシナリオの方に感情移入出来ない要素があるのならば。
それはですね、どうすると感情移入出来るか?っていう話にもなってくるんですけど、
要はその人間っていうのは知らない人よりは知ってる人の方に思いを馳せるものですよね。

で、例えばなんですけど一つ例を言うとですね、
日本海の沖合にタラバガニの漁をしてる漁船があるとしますよね。
そこに松岡修造が乗っているとしますね。
まぁナントカ万才みたいな取材をしてると。
漁師さんたちが「ほら、とれたてのカニだよ!食べなさい!」って言って、
「ああ、美味しそうですね!じゃあ食べましょう!」って言って
脚をバサッと切ってですね、パカッと脚を割って、
プルプルの中身をギャッと食べて「ウワーッ、美味しいですね!」って
いうのを観た時にですね。

我々はカニではなくて、松岡修造さんの方に感情移入することになりますね。
そうすると、「わー美味しそう!お腹空いた!」ってなると思うんです。



ところが、ちょっとの工夫で価値観が逆転しちゃうのはですね。
その直前のシーンに、例えば海底のシーンがあってですね。
「カニ男さんのおうち」ってのがあってですね、
そこのベビーベッドにおしゃぶりをくわえた可愛いカニが寝てるとしますね。
そこにお母さんカニがですね、「ああよく寝てるわ」なんて言って、
「あなた今日はね、結婚して1年だから、今日は早く帰ってきてね」なんてことを
奥さんのカニが言ってですね、旦那さんのカニに「いってらっしゃい!」と、
「早く帰ってくるよ!いってきます!」言ってカニのお父さんが海の方に上がっていきました。
そして・・(笑)



宇多丸
まぁでもね、ファインディング・ニモ的なことですもんね。

三宅
まぁまぁそうなんですけどね。
そうすると、次に松岡さんが美味しそうにカニをブチャ!バカッっと折って、
プルプルの中身をガブッって食べたのが、
さっきは美味しそうと思ったのに「なんてことをするんだ!!」と。

宇多丸
極悪!!なんていう・・。

三宅
というふうに変わると思うんですね。
ほんのちょっとしたことなんですね。

宇多丸
これはつまりカニ側の事情、誰でもいいですけどね、
いい人であろうが悪い人であるうが、
とにかくその人側の事情と行動の原理みたいなのをみせておくということなのでしょうか?

三宅
そうですね。
つまり、今なんで最初のバージョンと次のバージョンで
思い入れの対象が変わったかと言うと、
カニを良く知らない人から知ってる人に変えたからなんです。

宇多丸
ベビーベッドとかあるんだ!と。

三宅
だからこれは、難しい問題なんですけど、
どっちを先に持ってくるかで観客の感情っていうのは、
ひっくり返る可能性があるという事なんです。

宇多丸
あーーそうか、そうか、そうか!
じゃあ単純にある描写の置き場所だけで、そのキャラクターに対する共感度が変わったりする?

三宅
変わったりします!
だから実はそれを入れ替えるだけでシナリオが直る場合があるという事なんですよ。
そうしないとじゃあ、「人殺し」と「刑事」っていうのが、
一般的にどっちに思い入れしますか?って言ったら、
普通刑事だと思うんですけど、そうすると「レオン」は成り立たないって話なんです。

それは、「レオン」の事情を我々は知っていて、良く知っている人になっている。
一方、ゲイリー・オールドマンがよくわかんない人になっているというのがあるので、
職業を超えてると。


宇多丸
時としてだってね、ものすごい極悪人側にモロに感情移入する話だってありますもんね。
でも途中で道すがら殺されたよくわからない人の立場になればそれは最悪なんだけど、
我々は「だってあっちはよく知らない人」なんですよね、その映画上は。
これ残酷ですね、ストーリーって。

三宅
残酷です、だから恐いんですよ!
いくらでも誘導できてしまうんですね、観客を。
だからその辺も含めて、映画というのは基本誘導するものですから、
これを良しとする誘導なのであれば、その誘導が上手くいっているかどうか?
ということをチェックする必要があると。

宇多丸
なるほどー、恐ろしい話にもいきましたが。
というキャラクターに関するような補強みたいなのもするということですね。

じゃあパート3にいきますかね?
パート2・患者の診察はこんな感じにしといてですね、
実際そのスクリプト・ドクター業をやる上で三宅さんが、
こうやっているというか、ドクター業へのこだわりというか、
気をつけている事なんていうのはどのような事なんでしょうかね?

三宅
そうですね、まぁ今ずっとお話ししてきたような事っていうのは、
便利な本がたくさん出ててですね、勉強しようと思えば全然出来てしまう事なんですね。
ストーリー構造とか「3幕構成」っていうのは。

ただですね、それは非常に概要的な話で
実際に仕事でオファーを受けると、そこにはもう確実に◯◯さんっていう脚本家さんがいらして、
△△さんっていうプロデューサーさんがいらして、やっぱ人が作ってるものなんですね。

ですからその人たち個人のメンタリティとかですね、パーソナリティというものと
ちゃんと向き合っていかないといけないんですよね。
例え話ばかりして解決するわけにはいかないので。

その場合はやっぱりその大体オファーが来る時っていうのは、
プロデューサーとライターの関係がちょっと険悪になってることが多いんですね。
残念なことですけども。

言ってみればプロデューサーからのオファーなので、
プロデューサーのサポートするというか助けるような事をまずしなきゃいけないんですけど、
一方でライターを守るという言いますか、リラックスしてもらって
更に力を発揮してもらえるように診断書を出したいとは思ってるんですね。

宇多丸
そういう気を使ったというか・・。
余計な角を立てないようにも気を遣いながら・・。

三宅
というのはですね、
ライターを変えれば解決するのか?っていう問題があってですね、
そうするとAさんのパターンとBさんのパターンと、
場合によってはCさん、Dさんと4本シナリオが揃う事になるんですね、
いろんな人に書かせると。まぁそういう事もあります。

ただその場合は時々そのそういう事をやっちゃう
プロデューサーさんがいらっしゃるんですけども。
気をつけないといけないのは、
「Aさんのここは良かったよね、Bさんのここは良かった。
CさんのこことDさんのここをくっつけると良いんじゃない?」っていう
リライトの判断をする事があるんです。
でもこれはね絶対に避けないといけないんですね。
それはやっぱりあのシナリオは工業製品ではないので、
人間の中から出て来るものなので、必ず「Aさんのここがいいんだ!」とするなら、
それはAさんの中にあるものが出てきてる。Bさん、Cさん、Dさんも同様なんですね。
そうすると誰かがキーボードを打って一本に仕上げなきゃなんなくなった時に、
その嘘と本当が本質的に入り乱れてしまって、中から出て来るものが無くなって、
パーツの組み合わせみたいになっちゃう場合があるんですよね。

宇多丸
それはやっぱり良くなんないと・・。

三宅
よくならないですね。
少なくともそれを最後に筆をとる人に咀嚼させる余裕がないと、やっぱ駄目ですね。

宇多丸
もう一回、一個の体でいうと、フランケンシュタインじゃなくて、
ちゃんとしたつながった体として出さなきゃいけないという。

三宅
そうですね。
そうなると結果的に4つパーツはその人の中で咀嚼すると違うニュアンスになって
違う要素になりますね、どうしても。
それを良しとするかどうか?っていう判断もしなければならない。

宇多丸
それはもうあれですか?さっき言ってた、
一見それぞれの1幕、2幕、3幕そういう理屈にはあってても
やっぱりよくないという事になるわけですか?

三宅
そうですね、構成だけではない場合もありますので。
主人公のセリフであったり、脇役の個性であったり、
事例が具体的に挙げられないんで何とも言えないところはありますが・・。

宇多丸
いやでもこれは具体的には言いようも無いような・・。
つまりそのメソッドを通しても尚、残るべき作品の根本の何かがあるということですよね。

三宅
結局、計算式でどうしても割り出せない要素として、
最後にシナリオってものがポンと出ちゃうんですけど。
生ものなんですよね、やっぱり。

プロデューサーさんも当然悩んでらっしゃるし、
ライターも悩んでるしって時になるべく具体的な問題だけを提示出来るように
感情論じゃない、なんて言うんですかね?診断というかアドバイスというかが
できればいいなという風に常々思ってますね。

宇多丸
でもまぁ気を遣うっていうのは結果的に作品というか脚本のためになるからということですね?

三宅
そうです、別にその人が傷つかないためにって事だけではなくてですね。

宇多丸
なるほど、・・とかですか。
色々でも大変そうですね。
スクリプト・ドクターっていうか間に立つ仕事ですもんね、何しろね。
非常に気を遣うあたりではないかという事ですね。
私、3幕じゃないですけど今回5部に分けて紹介しますって最初に言わなきゃ良かったなと・・。
5部に行かねぇじゃん!っていうのはありますけどね(笑)

これスクリプト・ドクターの様々のエピソードを伺っていきたいのは山々なんですが・・。
じゃあもう4部行っちゃいますか?4部行っちゃいましょう。

あのスクリプト・ドクターになるっていうので三宅さんがですね、
このスキルを身につけた、これだってねある種にストーリーを観てログラインをね、
2行に抜き出すっていう作業の時点で普通の人はちょっと「うっ!」って
止まっちゃう人も多いと思うんですね。
もしくは、非常に的外れな部分を抜き出しちゃったりと買っていう事も多いと思うんですが、
このスキルっていうのはどうやって身につけて行ったのか?という・・。

三宅
今のあの脚本勉強されてる若い方は本当に恵まれてるなぁと思うのは、
アメリカでそういう構造分析の本っていうのが昔からいっぱい出てて、
それを翻訳した書籍が本屋さんにたくさん出てるんですね。


ですから、ログラインの話も「3幕構成」の話も書いてますので、
先にそれを読んでから勉強することが出来ると思うんですけど、
僕の時代にはそんなもの全くなくてですね、ビデオもなかったような時代なもんですから、
映画はもっぱら映画館が高いので家でテレビで吹き替えの洋画劇場をですね、
観て育ってた世代なんですね、そうすると今日見逃すと一生見れないかもしれないっていう思いで
テレビにかじりついているので、ちょっと異常な集中力で見ているので、
それを繰り返しているうちに大体1回みると、
その映画の構成を覚えちゃうっていう癖が付いちゃったんですよ。

で、ただそれでは満足できなくて、なんとか映画を自分のものにしたくて、
ビデオが無いのでカセットレコーダーでですね音だけ録ったりしてたんですね。
それを文字に起こしたりしてました。

そうすると、楽しいんですけどセリフしか起こせないじゃないですか?
で、セリフが無い部分っていうのは思い出しながら書かなきゃいけない。
いわゆるシナリオでいう「ト書き」ですけど、どういう場面だとか。
記憶違いで間違ったりもするわけです。
そういう事を繰り返しているうちにいろんなジャンルの映画をテレビで観ているうちに、
ジャンルっていうのはあんまり関係なく物語の構造っていうのは
共通している部分があるんだな!っていうのが、
映画表現に関してある時ちょっと気づいたんですね。

宇多丸
だって脚本書き出してるようなもんですもんね。

三宅
まぁ採録で起こしているような感じですよね。
そうすると西部劇であろうがコメディであろうがホラーであろうが、
どうもその特にアメリカ映画というのは30分おきに何か起きてるぞ!とかですね。
そういうのにだんだん気づくようになって行ったわけですね。

宇多丸
という・・。
これはでもこの訓練はある意味もし脚本とかに興味があるのであれば、
普通にDVDとか映画館とかでも良いですけど。

僕も映画館で展開が何か起こるたびに始まってから◯分目みたいなクセがついてて、
そういうような事は出来ますよね。

三宅
今なんかはDVD借りてきて、一時停止しながらエピソードを書き起こしてって。
そういう事も出来るのでいや、でも僕それはすごく勉強になると思いますけどね。

宇多丸
もしじゃあ本当に脚本家を目指される方もそうですし、
映画分析にも当然役立ちますから、そういう訓練っていうのは如何でしょうか?というね。
本当はこれあの三宅さんが脚本家になっていく、またね驚愕のエピソードとかも
ちょっとあるらしいんですが、これは次回にまた!

また前回のJホラー表現シリーズ、前回は幽霊編でしたけど、
モンスター編やりましょうとか言ってたんで、その時にもでまたちょっと

三宅
すみません、なんかちょっとずつ小出しにして去っていくような感じが(笑)
もったいつけてるみたいで・・。

宇多丸
いいんです、いいんです、いいんです!
これあの三宅さんも手かもしれない(笑)

三宅
それこそ3幕構成みたいな、そんなのですよね・・。

宇多丸
最後に、ちょっとパート5、まとめとして
この日本にですね、日本の映画界にスクリプト・ドクターっていうのは必要か?
というのをまとめ的に結論を出していただきたいんですけど、どうでしょうか?

三宅
はい、条件付きで必要だと思います。
というのはですね、ハリウッドのシステム丸ごとを日本に導入する必要は
僕は無いと個人的に思っています、そのドクターに限らず、
リライトのシステムもそうだし、プロデューサーの会議のシステムも
色々あるんですけど時間がないのであれですから・・。

宇多丸
もう全体が映画産業のやり方自体が違うんだから・・。

三宅
そうですね、根本的に違うのでハリウッドではないのでね、日本は。
ハリウッド映画の真似をしてもしょうがないとは思っていますけど、
まぁプロデューサーの相談役というか、脚本家の相談役でもいいんですが、
そういう形でドクターに依頼するという事が恥ずかしい事とか
特別な事じゃないっていうふうに、まぁ裏の裏で影の軍団で
静かに浸透していけば良いんじゃないかな?とは思っています。

宇多丸
誰にもしられずにね!
誰にもしられずに包茎手術が出来るわけですから(笑)
これは包茎であることは恥ずかしいと思わないで・・。
ドクター三宅のところに(笑)

三宅
いやいやいや、なんかちょっと違う!

宇多丸
っていうことですかね・・。
でもこれ関係者結構聞いてると思うので、
「えっ!そんな人がいるの?」っていうふうにね、
またこう殺到する可能性も高いと思いますよ。

(了)

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