2012/01/14

映画監督・三宅隆太が語る「スクリプト・ドクターというお仕事」(1)

今回は、TBSラジオ・ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル
2009年9月19日放送分サタデーナイトラボ
「シリーズ"エンドロールに出ない仕事人"第1弾
〜スクリプト・ドクターというお仕事〜」

を起こしたいと思います。
3本のpodcastにて配信されているうち、今回は前編を起こしたいと思います。

前編は「スクリプト・ドクター」というお仕事とは何なのか?
邦画業界でもあまり知られていない存在であり、名乗っている人も少ない
その職業について語られています。

音声はこちらから


ライムスター宇多丸(以下、宇多丸)
今夜の特集はこちら!
「シリーズ エンドロールに出ない仕事人 第1弾
スクリプト・ドクターというお仕事」

映画のエンドロールに決して名前が載ることがない
映画を影ながら支える仕事人たちを紹介する新シリーズその第1弾ということで、
先月、日本のホラー映画表現について講義していただいた
映画監督にして脚本家の三宅隆太さんをお招きし、
スクリプト・ドクターすなわち、脚本のお医者さんのお仕事を紹介して頂こうと思います。
ということで三宅さん、いらっしゃいませ。

三宅隆太(以下、三宅)
あ、どーもこんばんは。よろしくお願いします。

宇多丸
間髪入れずの登場で。
前のJホラー表現のね、解説も本当に素晴らしかったです。
具体的なあれも交えて・・。
その後「本当にあった怖い話」の新作もね、やられてて
アレを見たりする度に幽霊が寄ってきたりする時のカットの切り方とか
ショットの大きさとか幽霊と驚く人の顔をどの大きさで切り取ってるか?とか
本当にそういうことをものすごい意識してみるようになりましたね。



やっぱり三宅さんの仰る通りに
それがすごく「ああ、これが怖いのか!」みたいなのが分かったりして、
大変勉強になった企画でございます。

三宅
ええもう、ああ良かったです!!

宇多丸
そしてね、もうね最近ウィークエンドシャッフル映画特集・・。
この間のJホラー特集も本当そうだったんですけど、
ちょっとね突っ走ってますね。

他のだって雑誌とかも含めて、映画専門誌とかも含めて、
スクリプト・ドクターの話をするところってあんまり僕知らないんですけどね。



三宅
僕も聞いたこと無いです・・。

宇多丸
っていうくらいやっぱり影の軍団なわけですね。

三宅
もうかなり影の軍団です(笑)



宇多丸
しかしそれは実在するという!!
そして三宅さんはその一人ということで・・。
という部分の話ですよね?

ということで、このスクリプト・ドクターというですね、
あまり聞き慣れない名前なんですがこのお仕事解説してもらうにあたり
全部で5つのパートに分けて説明して頂こうと思っておりますので、
よろしくお願い致します。

では、早速はじめたいんですが。
まずですね、本当に根本の話、スクリプト・ドクターとは何か?
まぁ普通に読めば、映画の脚本(スクリプト)のお医者さんということですけど、
具体的にどういう様な事でしょうか?

三宅
えーとですね、あの普段皆さんテレビとかご覧になってて、
「あれなんだ?こんなシナリオだったらね、自分でも書けらぁ!」みたいにですね
思われることもあるかと思うんですけども、

世の中の出てる映画とかテレビのシナリオってのは、
シナリオライターが書いたままのものが映画になったりテレビになってるのではなくて、
必ずリライトと言って書き直しの作業を経て出てきてるものなんですね。

宇多丸
これはもう必ず?

三宅
必ずと言っていいですね。もうほぼ100%です。
あの初稿って言って最初に書いたシナリオがそのまま映画になるっていう
例はほとんどないですね。

ですから、これは別に悪いことでも良いことでもなくて、
リライトするのは当然だっていうのがまず前提として・・。

宇多丸
何のためにまずするんですか、リライトは?

三宅
リライトはですね、まぁ最初に上がったものはシナリオライターが
もう全部、心というかですね色んなものを込めて書いたものであるのは間違いないんですけども、
映画はやっぱり絵画や彫刻と違ってですね、大勢の人で関わって
色んな人のまぁ利害とか思いとかを踏まえて作るものですので。

例えば予算の問題であったり、キャストであったり公開する方向性であったり、
そういうものでプロデューサーから「こういう所は直して欲しい」っていうのは
必ず入るものなんですね。

その上でですね、同じ脚本家がずーっと書き直していくというやり方もあります。
例えば、テレビなんかの場合は最初から放送日が決まって企画が動くことが多いので、
何回かリライトしていく中で、本当はもうちょっと書き直したいな!っていうのがあっても、
リミットが来てしまってそれを取るということも無くはないんです。

映画の場合に多いんですけど、際限なくですねリライトが続いてしまう場合があるんですね。

宇多丸
ずーっと書き直し、書き直しをずっと重ねている・・。

三宅
もっと良くなる!もっと良くなる!と言いながら、
もっと悪くなるっていうケースもあるんですけれども・・。
そうなってくると何ヶ月とか下手すると何年というふうに企画をずっと
続けるケースも実はあるんですね。

宇多丸
ほー。今まさにこの瞬間もいつ世に出るか分からない脚本が
書き直し、書き直し、書き直しされてる・・。

三宅
されてると思いますね、実際に。
そういう作業が続いてくるとプロデューサーと脚本家で大体その作業は続けるんですが、
まぁだんだんこう疲弊してくるわけですね。
で、直しが色んな箇所に及んでくるとシナリオとっていうのは、
どっかいじると必ずどこかに影響がでるので、
「ここを直そう」と思ったら違う所も当然直さないといけないっていうふうに
やっていくうちにだんだんこう何を直したらいいのか?何が正解なのか?
みたいなところに向かって混乱してっちゃう。道に迷ってくる。

そういう時にスクリプト・ドクターという客観的に視点で
人間関係とかそういうのは置いといてですね、
シナリオの患部と言いますか・・、病状というか・・。

宇多丸
悪い所ですね。
シナリオを人体に例えるならば、
「なんか具合悪いぞ!」と、「俺の体具合悪い」っていうんで、
自分でなんとなく当てずっぽうで「この辺じゃないか?」みたいな
「この辺か?」みたいなことをやってると、
「どんどん具合悪くなって来ちゃった、もっと!」って(笑)
なので、お医者さんにかかると・・。

三宅
そうですね。
そうすると、具体的にどこに問題があって、どこをいじれば良くて、
もっと言うとどこをいじっては絶対にいけないとかですね。
そういう事も見つけることが出来ると。
そのためにドクターがいると。
大雑把に言うとそういう感じになりますね。

宇多丸
なるほど。
そのスクリプト・ドクターというような役割の人っていうのは結構いるもんなんですか?

三宅
うーん、日本では僕の知る限り7人はいますね(笑)

宇多丸
7人!!日本で7人!
これ本当に影の軍団じゃないですか(笑)
そのスクリプト・ドクターと名乗って仕事をしている方が
三宅さんの分かってる範囲で7人。
全然じゃあ数はそんなに多くない・・。

三宅
多くないです。
というのは、これは日本ではなかなかこう理解されてない職業というか、
必要性が認められてないようなところもある仕事だったりするんですが、
もともとはそのアメリカの映画の世界では割とポピュラーな仕事で、
1950年代のテレビドラマにも1回クレジットを発見したことがあるので。

宇多丸
スクリプト・ドクターとして?

三宅
「スクリプト・コンサルタント」と出てました。
ですからそういった立ち位置の方はその頃には最低限いたかと・・。

宇多丸
たまに今クレジット見てても「ストーリー・コンサルティング」みたいなのが
結構ずらーっと並んでたりする事ってありますよね?
やっぱりそれにあたるような仕事っていうことですかね?

三宅
そうだと思います。
それとアメリカ映画の場合は基本的にシナリオを何人もで書く場合があるんですね。
アメリカ映画のクレジットをご覧になってると「スクリーンプレイ by ○○」とか
「Written by ○○」っていうのが多い時は5人とか乗ることがありますね。

日本映画で5人載るとですね、観てる人は「揉めたな!」みたいな(笑)
ネガティブな、なんか上手くいかなかったな!って思うことが多いと思うんですけど・・。

宇多丸
実際にアメリカ映画はシステマティックにどんどん人に
やらせていくっていう感じだけど、
日本映画の場合は実際、人がいっぱい増えた時にその印象を持つっていうのは、
本当にそうだからと言うことですか?(笑)

三宅
本当にそうだからっていうのは、あったりもするんですけど(笑)
やっぱりイメージの問題なんですけど、日本の場合は一人の作家が
最後まで書き上げるのがまぁ美しいというイメージがあるのですよね。

宇多丸
それこそ観る側もそうですけど、作家主義というか、
一人のクリエーターのビジョンをそのまま綺麗に頭の中のものを
そのまま具現化するのが芸術のやり方として一番正しいのだという幻想が強いですよね。
これ音楽でもそうなんですけど・・。
それをね、ちょっと見直そうというのが来週の「ONCE AGAIN」の解説に
入って来るんですけど(笑)
それはまぁ置いといて・・。

三宅
なので、大勢の人間が色んな視点をですね、アイディアを出したりして、
一つの映画を作っていくっていうのがアメリカでは別に悪事とは見なされてないんですね。

で、実は5人クレジットされている場合には「ノンクレジット契約」っていう
契約を交わしたライターがそれ以外に10人くらいいたりするんで、
実際には十何人脚本に携わっている場合もありますね。

宇多丸
とはいえ、すごく素朴ないっぱい関わるのが何となくネガティブな印象をもつあれとして、
船頭多くして船山に・・というさ、いっぱいいると色んな人の意見が入って
わけわかんなくなっちゃうんじゃないのか?っていうような印象を
受ける人もいるんだと思うんですけどね。

三宅
と思うんですけどねぇ。
実は船頭はプロデューサーなんですね。
なので脚本家は逆に言うと船頭に合わせて色んな人が入る場合もありますし、
脚本家が船頭するということはあまりないかと・・。

宇多丸
とはいえスクリプト・ドクターというのは名前が連なっているのとはまた別の、
それを経ても尚、駄目な場合・・。

三宅
駄目な場合とか、ノンクレジットでアドバイスをしたり、
場合によっては代わりに書いたりとかということもあります。

宇多丸
これは大体、どのくらいから日本では始まったというか・・。

三宅
うーん、正確なところは・・。
本当にそれこそ影の軍団なのでクレジットされてない以上、
その映画にタッチした人しか分からないっていう・・。

もっと言うと、僕がタッチした映画も、映画出来て打ち上げとかに行くと、
スタッフが僕がいたことを知らなくて・・。

宇多丸
「三宅さんも関わってたんすか?」みたいな。

三宅
そうそう、そうなんです。
なのに知ってるスタッフにあったりすると
「なんでここにいるの?」みたいな事になったりもするんですけど。
日本では正確にここからというのは無いですね。

宇多丸
だいたい三宅さんがスクリプト・ドクターを・・。

三宅
はじめたのは、僕に関して言えば2003年の1月くらいですね。

宇多丸
あの今でもね、スクリプト・ドクターという仕事の存在は
あまり知られていないじゃないですか?
これは日本映画界内部でもそうだということですね?

三宅
ですね。
実際業界の方でも初めてお会いした名刺をお渡しする時に、
「えっ!ドクターやってらっしゃるんですか?」とか、
「えっ!ドクターって日本にいたんですか?」っていうような
リアクションはよくあります。

宇多丸
なるほど、でもいざ始めてみたら需要っていうのはどうなんですか?

三宅
あるんですよね(笑)

宇多丸
要するにみんな、スクリプト・ドクターという存在を知らないから
そういうふうに頼まなかったけど、そういう人がいるんなら・・。
いるんなら!!

だから今まであれですね、
ずっと民間療法でこうなんかその辺で拾ってきた雑草をゴリゴリやって、
何とかしてたんだけど、「いやー、なんかお医者さんいるんならかかろうかな?」
みたいなことですかね?いざ開業してみたら?
医者がいない村に開業してみたら大流行りっていう。

三宅
そうなんです。
意外とコンスタントにありますね、月に最低でも2・3本は入って来る感じ。

宇多丸
2・3本。これは入って来たものは三宅さんがチェックします。
それは後に映画化されてくものなんですか?されないものなんですか?

三宅
されないものもありますし、されたものもありますし、されないというより逆に
僕がこれはここで止めた方がいいっていうような事を言う場合もあります。

ただそれはもちろんそれを止める権限が僕にはないので、
理由はもちろん申し上げますが、その上でご判断されるのはプロデューサーさん。

宇多丸
プロデューサーに「もう手遅れです、全身に回っております」
みたいなことを伝えるいうことですかね・・。

三宅
そうですかねぇ・・。
「もうちょっと別のアプローチをした方がいいんじゃないでしょうか?」
っていうようなことはありますね。

宇多丸
うーん、なるほどなるほど。
ということがおおむねスクリプト・ドクターという職業のざっくりとした概要ということですかね?
ただ実際その脚本・・。まぁを人体に例えましてけど、
とはいえその病気だったら見れば、「肺が真っ黒ですよ」とか分かるけど、
脚本をこう見てお話が書いてあって、僕ら出来上がった映画見ると、
「ブッサイクやなー」みたいなことは何か分かるけど。

脚本見て、どう見つけてくのか?それをどう具体的に直していくのか?
それだって三宅さんがなんとなくやってたら医者でも何でもないわけじゃないですか?
つまりドクターをおっしゃるからには、明確なメソッドがあるわけなんですか?

三宅
ありますね。

宇多丸
ほう、脚本の読み方と・・。

三宅
読み方とその分析して答えを見つけていくということですよね。

宇多丸
これはでもある意味、普段我々が映画を・・。
私、「シネマハスラー」なんて言ってますけどちょっと全然医者にもかかったことのない
医療の医の字も分かっていないっていうことになるかもしれません。

これだから我々が今後映画を見るにあたっての
ひとつの物差しにもなり得るような話になるかもしれませんね。

といったあたりで、引き続きスクリプト・ドクター如何にどうやって
患者さんを診断しているのか?そして治療をするのか?という具体的なお話を
伺いたいと思います。



(2)へ続く

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