ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル「浮世絵は、江戸のグラビア雑誌だ!!」特集・後編

2011/08/07

サタデーナイトラボ タマフル 春画 浮世絵

t f B! P L
今回は、TBSラジオ・ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル
2011年5月7日放送分サタデーナイトラボ
タマフル・カルチャースクールシリーズ 
『浮世絵は、江戸のグラビア雑誌だ!!』特集
を起こしたいと思います。
分量があるので、前後編になります。
今回は、その後編です。(前編は、こちらから

(音声は、こちら



では、次に行きましょうか。

仮説その4 「浮世絵は、江戸の社会派雑誌だ!!」

宇多丸:
「浮世」ってついつい、もとの意味を忘れちゃいますよね。
「浮世絵」ってのは、現在のリアル社会が映されるということですよね。
で、社会は雑誌ということなんですけど、どういうことでしょう?



松嶋:
「浮世絵」で描かれるもののジャンルの一つに
ある時期から、報道メディアという面も持ち出します。
本来、伝統的に日本の絵っていうのは中国絵画を模倣して真似て
それをパロディとして発展していった歴史があります。
ただ、「浮世絵」になってからは社会風刺っていう事もするようになったんですね。

宇多丸:
やっぱりそのさっき言った、印刷技術というか版画の形で
大量の作れるようになったのも大きいんですか?

松嶋:
技術的な意味合いも多いと思います。
これが生まれた意味っていうのが色々あると思うんですが、
例えば、「美人画」であるとか、「役者絵」というのが規制されることになるんです。
具体的に言うと、「天保の改革」水野忠邦ですか。
庶民の楽しみですが、あまり華美な生活をしないということで。
ちょうど、江戸市中にあった芝居小屋を浅草に移転させたのもその時代。
要は、郊外ですから「町の外へ行け!」と
そういったところで規制がたいへん行われていた。
「有害マンガ規制」と同じですね(笑)
そういうことも踏まえて、画題にいろんな工夫が施されるわけですね。
で、そこで生まれたのが幕府批判・風刺画。そういったものが描かれ始めます。

宇多丸:
それはやっぱり規制されたことに対する不満が高まってた?

松嶋:
ですね。それをみた庶民が喜んで喝采する。
ただ、ストレートに表すのは駄目なんですね。
検閲されちゃいます。
そこで昔の古い時代の過去の物語を皆が知ってますので、
それをパロディにしてこの時代のこの人だと置き換えるとわかるようにしました。
「浮世絵」の一つの手法で「見立て」っていうのがありますが、
大きな「見立て」の中に「風刺画」のひとつも出てくるんだと思います。

こういったものですね。
3枚の続きものの「浮世絵」版画がひとつの大きな画面になります。

宇多丸:
まず、すごい。ものすごい情報量の絵ですね。
手前に囲碁を指している殿様なのかな?周りにいろんな人達がいます。
そして後ろで、魑魅魍魎たちが、
幻魔大戦というか上空では戦っているみたいな風に見えますけど。
これはどういう絵なんですか?

松嶋:
この人が、その源頼光という人なんですが、
平安末期の人ですかね。将軍ですね。
その人が魑魅魍魎たちに病を施されているというか。
その前でなにか色々考えている人たち。

宇多丸:
これはじゃあ、手前の人たちが現行幕府・現政府。

松嶋:
はい。そういう風に読み替えて。そうだと思います。
百鬼夜行というんですかね、道具の妖怪たちなんですが。
こういったものがその時代、当時規制された娯楽に置き換えられてる。

宇多丸:
あー、庶民たちのなんかドロドロしたパワーみたいなものが上空にあってと。
手前では、かたっくるしく考えている殿様達がいる。
それを揶揄している感じなんだー。
既にすごい、後ろの妖怪たちがものすごいポップですよね。表現が。
マンガ表現です、完全にこれは。
すごいユーモラスなルックスをしたのもいるし。
想像力の限りを尽くした感じの。
ギレルモ・デル・トロっていう感じもありますよね。

松嶋:
手前の人物たちってのがカラーでカラフルに描かれてるんですが、
後ろの妖怪たちってのは、基本的にはモノクロですね。
そういったもので異次元と現実世界を区別して表現っていうのもある。

宇多丸:
現実と妄想世界の描き分け!!
「サッカーパンチ」(エンジェル・ウォーズ)的なことが既にね。
しかも手前のかたっくるしい殿様が、逆に滑稽に見えますもんね。
クソ真面目なツラしやがって!っていう。

松嶋:
もっと言いますと、先ほど言いましたように服装に家紋であるとか、
当時の人物名でなく、過去の人物名もいるけど、
家紋で「この人は水野さんだ!」とかの判断が見る人には出来たわけです。
絵の画題は「源頼光公館土蜘蛛妖怪図」っていう作品です。
この絵を書いたのは歌川国芳っていう人で
たいへんこういう「風刺画」を描いた面白い画家です。

宇多丸:
これは単純に絵として楽しい!隅から隅まで見て楽しい感じですね。
あと、「社会派雑誌」というあたり何かありますか?その仕組み的な。
さっき、「中身を検閲されるから・・。」みたいなことを言ってましたが。

松嶋:
最初ですね、「浮世絵」を出版するに当たって、
業界内の自主規制があったんですね。
出版元が当番制で行事っていう役目をして仲間内でしてたんです。
現代で言うと、テレビゲームの自主規制団体のCEROとか、
映倫も近いものですが、そういったものをやってました。

宇多丸:
一方、絵を描く人たちはどうつもりでやっていたんですか?

松嶋:
「浮世絵版画」っていうのは版元がアイデアを出して
売れるものを次から次へと出していくんです。
それを絵にする人が、
今言いました歌川国芳とか喜多川歌麿とかいう画家なんですね。
今でいう「芸術家」にそのまま当てはまるわけではない。

宇多丸:
要は、自分の頭に浮かんだインスピレーションのままに、
自分の内面を表現するのどゎ-!ではなく。

松嶋:
今でいうとライターさん、編集者、新聞記者そういった人たちに
近い役割を持っているのではないか?
ということで、社会派雑誌というか、フライデーやフォーカス、
そういったものに置き換えられるかなと考えたわけです。

宇多丸:
見る側のみどころも下世話な趣味のところもあったと。
その一方で、着物とか昔の物語に見立ててとか、
共有している文脈?コンテクスト!がやっぱすごい高度な気がするんですけど
これは共有していないとわかんないじゃないですか?

松嶋:
江戸には武士・武家が50万人、町民(町人)が50万人。
で、100万人都市ですね。
出版も盛んでしたから、すごい文化の成熟度があったと思うんです。
さきほど見て頂いた中に文字がたくさん書かれていたと思うんですが、
あれは平仮名が中心なんです。基本的に皆が読めるわけですね。
だから、すごい識字率がその当時は世界有数だったっんですね。
そういう珍しい国だったと思います。

宇多丸:
すごくガラパゴス的な進化は遂げているけど、
その中ではすごい爛熟していると。

「浮世絵は、庶民が楽しめる一大メディアだった!」
というまとめでよろしいでしょうか?

松嶋:
もう、その通りです(笑)

仮説その5 「浮世絵は江戸のAKB48だ!!」

宇多丸:
「ヘビーローテーション」かかってますけど(笑)これどういう事ですか?

松嶋:
AKB48が「会えるアイドル」なら、
「浮世絵」は「買える芸術だ!!」と思うんですが・・。(笑)

宇多丸:
かなりあの、五つめの仮説に至っては、
こじつけ度がアップしましたけれど・・。
どういう事でしょうか?

松嶋:
「浮世絵版画」っていうのは、「春画」は別にしますと、
普通に庶民が買えたものだと思うんですよね。

宇多丸:
どんくらいになるんですかね?今の感じでいうと。

松嶋:
貨幣価値っていうのが比較がなかなか難しいんですが、
大体その当時の言い方で言いますと、
16文とか20文とかそういった値段だったそうです。
かなり江戸後期には、「もりそば」1杯が16文ぐらい。
一般の家庭で1日の食費が、20文から40文くらい

宇多丸:
じゃあ、食費よりちょい安?

松嶋:
ぐらいじゃないかなー?と思うんですよね。
イメージしますと正確かどうかわかりませんけど、500円前後
こういう三枚続きの大きな絵になると、
1,800円とかそういうイメージが大体出来ていると思います。

宇多丸:
ああ、なるほど。すごい綺麗なでっかい写真集買ったりムック買ったりすると
ちょい高くなるけど、週刊誌買う感覚でふっと買うと500円とかそういうムード?

松嶋:
よく言われるのがですね、江戸にはたくさん地方から武家も来ますし、
町人も商売をしに江戸に来ますから、
国に帰るときのお土産としてもってこいなんです。

宇多丸:
やっぱ江戸で生産されるものなんですか?

松嶋:
江戸中心です。
上方(大阪)でもそういう出版物はあるんですが、
圧倒的に江戸で作られて消費されてます。

宇多丸:
さっき言った「文脈を共有している」云々で言うと、
メディア的なものが全国で張り巡らされない限りは、
やっぱり都市じゃないと絶対発達しない文化ですもんね。

で、これが意外だったんですけど。
「今でも浮世絵が買える!」っていう。これはどういうことなんですか?

松嶋:
具体的に言うと、古本屋さんですね。
古書店とか、私なんかは専らヤフーオークションで買ってます。
本当にピンキリで、大変高価なものから1万円くらいのもの(下のもの)

古書店の雑誌があって、カタログなんですけど
「こういったものが現在売られています」と。
歌麿とか写楽とかは、やはり何千万円とか。
クリスティーズって言うオークション会社のカタログなんですけど、
これだと1億円位したものが出てます。

宇多丸:
その差って、西洋人が価値を認めた作家っていう
ところの差だけですよね?実は。
出自は全く変わらないわけですよね?

松嶋:
実はそうかもしれないですね。
だから、美術館で飾られているものと、私達が買えるものっていうのは、
品質とか今でいう芸術性の高低はあるかもしれませんが、
私なんかは買えるものは自分の好みで買って、
ひとりで喜んでますからね(笑)

宇多丸:
それそこ庶民が高尚なことなくグッときたやつを買っていたわけだから。
有名な人たちよりグッとくるものの方が安く手に入る可能性もありますよね。
あと、「浮世絵」は手にとって触るのが醍醐味っていうことなんですけど。

松嶋:
そこで私の宝箱を持ってきたんですが(笑)
ちょっとボロボロなんですけど・・。
「金花七変化 二編」って書かれていると思うんですけどね。
上下巻です。で、表紙絵に「浮世絵版画」を刷り込んで、
中は小説なんですね。
金花七変化 - 早稲田大学・古典籍総合データベースより

宇多丸:
はぁー。でも綺麗に印刷されて!
なんかすごい立派な印刷ですね。
絵が、一杯描いてある。
すごい切り株描写というかスプラッター描写が
いきなりでてきたんですけど。
絵のクオリティも思ったよりも全然今っぽい!

松嶋:
全部のページに物語が書かれてまして、
その中に挿絵がモノクロで。

宇多丸:
ラノベじゃないですか!

松嶋:
完全にそうですね。
平仮名ですから、皆が読めて楽しめるわけですね。
本当にちょっとした訓練で今でも読めます。

宇多丸:
これで今、いくらくらいなんですか?

松嶋:
私が買って(オークションなんですけど・・。)ポチッとやったときは、
多分7,500円くらいだったと。
競り合ってそれくらいの値段です。
簡単に言うと、150年くらい前のものです。

宇多丸:
150年前でしょ!
150年前の人が丁寧に糸で綴った、赤い糸で綴られた本が!

松嶋:
売られるときは、絵を見せて購買欲を煽ると。

宇多丸:
表紙はフルカラーでこれも綺麗だし、
中も普通にブルーで全然鮮やかに残ってますよね。

松嶋:
ここを特に見て欲しいのが、
手にとってもらいたいというのは、こういうところです。
ここ触ってもらえますか?

(宇多丸、実物を触ってみる)

松嶋:
ザラザラしてますよね?
「浮世絵版画」は木版画ですから、凸凹してるんですよ。
だから、あくまでこれは絵本ですけど、
先ほどの版画である女性のものでしたら、
色々楽しめる状態にもなるんですよ。

宇多丸:
ちょっと待って下さい!あぁなるほど。
「春画」とかで版画であれば、局部とかがね。
絵自体、構図自体強調されてるものが、
触ると「おやっ!!」3D!!
3D違う!触覚もあるから4Dだ!!っていう事になるってことですかね。
はー、わかりました。

といったあたりで、
全然、今の我々にとっても身近なものですよ。
「会いに行ける」というか「買いに行ける芸術だ!」と。

「浮世絵は手に取れる芸術だった!」
というまとめでよろしいでしょうか?

松嶋:
はい、その通りです。

宇多丸:
あんまり、AKBは関係なかったような気がしますが・・。

五つの仮説一通り出ましたね。
だいぶ身近な感じに感じられてきたんじゃないかな?というあたりで、
ここで最後のビッグな仮説をお土産に持って帰って貰おうと思って、
こんな大胆な仮説も伺ってみようと思います。

題して!良いですか?みなさん覚悟して下さいよ!!

おまけ仮説  「写楽は、江戸の水嶋ヒロだ!!」

宇多丸:
いいんですか?
いくらその「浮世絵」が勝手にアイコラやるようなジャンルだからって、
いいんですか、この勝手な仮説!!

松嶋:
写楽っていうのは、「謎の絵師」として有名な絵師です。
正体不明と言われてました。
最近の学説では、斎藤十郎兵衛って人が
正体だっていうのが有力になっています。
この人は、能の役者さんです。
自分が出る側だったのが書く側になったと言われています。

宇多丸:
おやおやおや。これは聞き捨てならないよ。
今ちょっと「水嶋ヒロ」感がプッと上がってきました。
ということで、水嶋ヒロさんが本名で小説を書いたようなものだと。
と、言わざるを得ないという・・。のが現状ですね。

写楽って意外と活動期間が短い?

松嶋:
そういうことで言いますと、
水嶋ヒロさんと相当重なる部分が多いかもしれないんですが(笑)
あの、活動したのはたった10ヶ月間だけ(写楽名義で)

宇多丸:
あー、そうなんですか!
この間に数々の作品を残して、
海外でも評価されるような作品になっていったと。

松嶋:
今現在では、
145種類あるいは、146種類の絵をつくったと考えられています。

宇多丸:
写楽って「浮世絵」の代表的な人じゃないですか。
なのに!ってことですよね?

松嶋:
ぶっちゃけて言いますと、写楽は絵が下手です。
って言い切っちゃうわけです(笑)
その当時の評価として、役者さんを役所の顔通りに書いちゃった。
リアルに書いちゃった。普通は理想化して書いちゃうわけですが。

宇多丸:
そのあたりが、むしろ海外の人たちに評価されやすい部分だと。

松嶋:
能役者さんだったので、専門的な絵の修行をしていない。
そういう意味も込めて、純粋にデッサンが取れてない。
有名な写楽の絵がありますけど、手なんかみると・・。
三世大谷鬼次の奴江戸兵衛 -東京国立博物館 貯蔵品一覧より

宇多丸:
手が小さいもんね。
「ザ・浮世絵」って言う感じの絵でこれを思い浮かべるけど。
「普通に手が小せぇんだけど!」って感じがありますもんね。

松嶋:
だからデフォルメとか誇張っていう風に見えるかもしれないんですが、
単に下手なんじゃないかな?と(笑)

宇多丸:
あと美化して描かないというあたりで、
女形を美化して描かない。

松嶋:
役者さんは女性の格好をしていても、
基本的には女形、男性ですので。
マツコデラックスさんだとか、ミッツマングローブさんみたいな方に・・。

宇多丸:
女形で綺麗に描くんじゃなくて、絵を見た途端
「男やないか!!」って感じに見えると。

松嶋:
それすると役者さん怒るとはおもうんですが(笑)

宇多丸:
型破りではあるんですよね。
そういうとこでも水嶋ヒロさんの小説の良さに重なるものがあると
いうことなんでしょうかね。
「浮世絵」の中では写楽は異色な立場だったんですね。
それがわかってみるだけでも、違いますよね。
これが代表なんだって見ちゃいますもんね。

松嶋さん、ありがとうございました。


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